風影奪還の章
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無線の合図と同時に、各所に仕掛けられていた札が一斉に剥がされた。一拍置いて、サクラと名前の攻撃が重なる。衝撃が洞窟に響き渡り、入口を塞いでいた巨大な岩が粉々に砕け散った。
「行くぞ」
俺の合図で、全員が一斉に洞窟の中へ踏み込む。薄暗い空間の中央に少年が横たわっていた。そして、その身体をまるで腰掛けのようにして座っている金髪の男。赤い雲模様の暁の外套。こちらを見下ろす視線には、緊張感など微塵もない。隣には、同じ外套を羽織ったもう一人の男。大柄な体躯、感情を感じさせない無表情。
次の瞬間、ナルトの怒声が響いた。
ナルト「てめぇーら、ぶっ潰す!!」
反射的に俺はナルトの肩を掴んでいた。
カカシ「待て、ナルト!」
無謀に一歩踏み出せば取り返しがつかなくなる。相手は暁だ、感情に任せて動く場面じゃない。
サソリ「あいつが、九尾のガキか」
『……おい』
低く、抑えた声が洞窟に落ちる。
『私の友達の上から……降りろ』
背後から刃を突きつけられたような感覚。殺気だ。鋭く、濁りがなく、それでいて怒りを必死に押し殺した殺気。俺に向けられたものじゃないと分かっているのに背筋がぞわりと粟立った。
視線を向けると、名前は感情を削ぎ落としたような表情をしていた。怒りも悲しみも表に出していない。だが、その瞳だけが異様なほど冴え渡り、真っ直ぐにデイダラを射抜いている。
…まずい。今、彼女が目を付けられるのは最悪だ。洞窟の奥、薄暗がりの中で暁の二人がわずかに口角を上げた。笑みというには浅く、けれど確かに興味を示すそれ。
デイダラ「……やるな、あいつ」
感心したように息を吐き、軽く首を傾げる。
デイダラ「サソリの旦那、あの女のこと知ってるか?」
サソリ「いや、知らないな」
即答だった。
しかし、視線が値踏みするように彼女へ向けられる。
サソリ「……だが、いい素材だ。あいつは俺によこせ」
その言葉を聞いた瞬間、脳裏に蘇ったのは自来也様との会話だった。
〝もし、あいつの成長が中途半端なら、下手に目立たせるな〟
……最悪の展開だ。名前が成長しているのは分かる。チャクラの質も、判断力も、以前とは比べものにならない。だが、相手は暁だ。しかも二人。太刀打ちできるかと問われれば、正直まだ分からない。分からない賭けに、あいつを目立たせるわけにはいかない。ここで標的になるのはどう考えても避けるべきだ。俺は即座に手を上げ制止しようとする。
カカシ「待て――」
だが、その言葉よりも先に。
『大丈夫だよ、カカシ先生』
静かな声だった。反射的に視線を向けると、彼女は驚くほど落ち着いた表情でこちらを見ていた。
『感情のコントロールは基礎以上に、もう特訓したから』
はっきりと言い切る。だが、視線を落とせばすぐに分かった。ぎゅっと握り締められた拳は白くなるほど力が込められ、わずかに震えている。飛び出したい衝動を必死で押さえ込んでいた。
もし、ここでもう一人の人格が表に出てきたら、我愛羅の救出どころじゃない。戦場は一気に崩壊する。頭では彼女の言葉を信じるべきだと理解しているのに、嫌な想像を振り払えずにいた。
デイダラ「分かってんだろ、もう死んでるって」
軽く、無神経に投げられたその一言。その瞬間だった。名前のチャクラがはっきりと揺れた。空気がわずかに歪み、嫌な予感がして振り返ると、彼女はにっこりと笑っていた。
『ごめん、カカシ先生。一発だけ許して』
止める暇もなかった。爆発的に解き放たれたチャクラが彼女の身体を包み込み、地面を蹴る音が一拍遅れて洞窟に響く。突風のような踏み込み。デイダラが振り返り目を見開いた。
デイダラ「……おいおい。マジかよ」
その顔に浮かんだのは驚き、そして確かな興奮。彼女の一撃を防ぐと同時に、デイダラとサソリは動いた。我愛羅の身体が素早く鳥の中へと収められ、次の瞬間、デイダラの姿が洞窟の外へ飛び出した。
ナルト「待てぇぇ!!」
ナルトと名前が、迷いなくその後を追う。
デイダラ「ますます欲しくなったぜ。なぁ?あんた」
『……我愛羅を返せ』
短い一言だが、そこにははっきりとした怒りが滲んでいた。
カカシ「おい、誰が〝メンタルトレーニングは猛特訓したんだ〟って言った?」
少しだけ呆れを滲ませて言うと。
『アハハ……つい』
と、彼女は気まずそうに笑った。その笑顔が、ほんの数秒前まで凄まじい怒気を纏っていた人物のものとは思えない。思わず軽く頭をこづいてやる。それは叱責というより、正常かどうかの確認に近かった。
怒りを抱えたままでも、こうして冗談を言える余裕がある。感情に飲み込まれず、境界線を踏み越えない自制。三年前の彼女にはまだ危うかった部分だ。
今は違う。力を引き出すまでの速さ、踏み込みの鋭さ、無駄を削ぎ落とした動き。そして何より、戦闘の中でも乱れない“判断”。底上げされた身体能力だけじゃない。精神と技術、その両方が確実に噛み合っている。
彼女はもう〝守られる側〟じゃない。それでも、その成長を誇らしく思う一方で、胸の奥にわずかな引っかかりが残る。あまりにも早く大人になってしまったような気がして。
下忍を持つ小隊長ってのは、つくづく損な役回りだ。そう思いながら、俺はもう一度だけ彼女の頭に手を置いた。
