風影奪還の章
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無線の合図と同時に、各所に仕掛けられていた札が一斉に剥がされた。一拍置いて、サクラと名前の攻撃が重なり、入口を塞いでいた巨大な岩が粉々に砕け散った。
俺の合図で全員が一斉に洞窟へ踏み込む。薄暗い空間の中央。そこには一人の少年が横たわっていた。そして、その身体をまるで椅子代わりにするように腰掛けている金髪の男。その隣には、大柄な体躯の男が無言で立っていた。張り詰めた空気の中、ナルトの怒声が洞窟に響き渡った。
ナルト「てめぇーら、ぶっ潰す!!」
カカシ「待て、ナルト!」
反射的に俺はナルトの肩を掴んでいた。無謀に一歩踏み出せば取り返しがつかなくなる。相手は暁だ、感情に任せて動く場面じゃない。
サソリ「あいつが、九尾のガキか」
デイダラ「そうみたいだな、うん」
淡々とした声が響くなか、俺はナルトを抑えることに気を取られ、もう一人の変化に気づいていなかった。
『……おい』
低く、抑えた声が洞窟に落ちる。
『私の友達の上から……降りろ』
ぞくり、と背筋に悪寒が走った。まるで背後から刃を突きつけられたような感覚。殺気だ。鋭く、濁りがない。それでいて、今にも溢れ出しそうな怒りを必死に押し殺している。俺に向けられたものではないと分かっているのに、本能が警鐘を鳴らしていた。
思わず視線を向ける。名前は我愛羅を見つめたまま、一歩前へ出ていた。表情は静かだったけど、その瞳だけは違う。凍りつくほど冷たい視線が、我愛羅の上に腰掛ける男へ真っ直ぐ注がれていた。普段のあいつからは想像もできないほどの怒気。その場にいた誰もが気づいていた。今、名前は本気で怒っている。しかし、暁の二人がわずかに口角を上げる。興味を示す表情であることは嫌というほど分かった。
デイダラ「…やるな、あいつ。サソリの旦那、あの女のこと知ってるか?」
サソリ「いや、知らないな……だが、いい素材だ。あいつは俺によこせ」
まるで品定めでもするかのような視線。その言葉を聞いた瞬間、脳裏に自来也様の声が蘇った。
〝もし、あいつの成長が中途半端なら、下手に目立たせるな〟
舌打ちしたくなるほど、最悪の展開だ。名前が成長しているのは分かっているけれど、相手は暁だ。あいつがどこまで通用するのか、俺にもまだ測りきれていない。俺は即座に一歩前へ出て、視線を遮るように名前の前へ立ちながら手を上げた。
カカシ「待て――」
だが、その言葉よりも先に。
『大丈夫だよ、カカシ先生』
静かな声だった。反射的に視線を向けると、彼女は驚くほど落ち着いた表情でこちらを見ていた。
『感情のコントロールは基礎以上に、もう特訓したから』
はっきりと言い切るその声に揺らぎはない。まるで自分自身に言い聞かせるのではなく、事実を告げているだけだと言わんばかりだった。だが、視線を落とせばすぐに分かった。ぎゅっと握り締められた拳は、白くなるほど力が入り、その指先はわずかに震えている。
デイダラ「分かってんだろ、もう死んでるって」
無神経に投げられたその一言。挑発のつもりだったのか、それともただの事実の確認だったのかは分からないけれど、名前のチャクラがはっきりと揺れた。
『ごめん、カカシ先生。一発だけ許して』
静かな声だけれど、その中に込められた怒りは隠しきれていなかった。
カカシ「待――」
止める暇もない。爆発するように解き放たれたチャクラが彼女の身体を包み込むと、地面を蹴る音が一拍遅れて洞窟に響いた。一直線にデイダラとの距離を詰める。
デイダラ「……おいおい。マジかよ」
振り返ったデイダラが目を見開いた。その顔に浮かんでいたのは焦りではない。驚き、そして、それ以上の興奮。間一髪でその一撃を受け流し、同時にサソリも動いている。我愛羅の身体が素早く鳥の中へと収められ、次の瞬間、デイダラの姿が洞窟の外へ飛び出した。
ナルト「待てぇぇ!!」
デイダラ「ますます欲しくなったぜ。なぁ?あんた」
『……我愛羅を返せ』
低く返した声には、まだ怒りの熱が残っていた。俺は二人の後を追いながら小さく息を吐く。
カカシ「おい、誰が〝メンタルトレーニングは猛特訓したんだ〟って言った?」
少しだけ呆れを滲ませて言うと。
『アハハ……つい』
名前は気まずそうに頬をかいた。ほんの数秒前まで凄まじい怒気を纏い、暁相手に一直線に突っ込んでいった人物と同一人物にはとても見えない。俺は軽くその頭をこづいた。それは叱責というより、正常かどうかの確認に近かい。
怒りを抱えたままでも、こうして冗談を言える余裕がある。感情に飲み込まれず、境界線を踏み越えない自制。三年前の彼女にはまだ危うかった部分だ。
彼女はもう〝守られる側〟じゃない。それでも、その成長を誇らしく思う一方で、胸の奥にわずかな引っかかりが残る。下忍を持つ小隊長ってのは、つくづく損な役回りだ。そう思いながら、俺はもう一度だけ彼女の頭に手を置いた。
