中忍選抜試験編 前編
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カカシ先生との、昨日の会話がふと頭をよぎる。
カカシ「一次試験、突破おめでとう」
『ありがとうございます。けど、難しすぎて全然わからなかったです。採点に関係ない試験で、ほっとしました』
正直に言えば、まともに答えられた問題なんて一つもなかった。流れでなんとかやり過ごしたけど。それよりも私は、周りの受験者たちの〝カンニングの仕方〟に夢中になっていた。
それぞれが、見たこともない術を使って情報を盗み取っていく。気づかれないように観察するのも一苦労で、緊張感はあったはずなのに。それ以上に純粋に面白いと思ってしまった。そんなことを思い出して、ふっと気が緩みかけた、その時。
カカシ「まあ、上を目指すのはいいことだ。でも、次の試験からは覚悟だけはしておけよ。一気に危険度が増すから」
『今その話ですか?もう受けるって決まってるのに』
少し呆れたように返した私に、カカシ先生はいつもの調子で肩をすくめた。
カカシ「念のため、ね。お前は過酷な環境で生きてきた分、きっと強い。……受からなくてもいい。死なずに帰ってきたら、それで十分だ」
『……え、死ぬんですか?』
思わず聞き返した私に、先生ははっきりとは答えず、ただ小さく息をついただけだった。その時は半信半疑で聞き流した。〝中忍試験で死人が出る〟なんて、あまりにも現実味がなかったから。けれど、今なら分かる。あの言葉の重さも、その意味も。
今思えば、普通じゃなかったのは、私のほうだったのかもしれない。同意書にサインした時でさえ、深く考えていなかった。それでも、ほんの少しでも早くこの試験の危険性を理解していたら、そんな後悔が胸の奥でじわじわと燻っていく。けれど、現実は容赦なく目の前にあった。
腕の中でぐったりと気を失うナルト。震えが止まらないサクラ。血に濡れ、動揺を隠しきれないサスケ。そして、この惨状を生み出した蛇のような女。その光景を前にして、胸の奥から込み上げてきたのは、恐怖じゃなかった。じわじわと体の奥を焼くように広がっていく、これまで味わったことのない感情。
『なんか、腹が立つ』
思わず零れたその声を、女は鼻で笑った。まるで子どもの癇癪でも見るような、余裕を含んだ笑みだったが、私はそれを意識的に無視する。ナルトをサクラに預け、ふらつく彼女の身体を支えながら状態を確かめた。腰が抜けていて、逃げられそうにもない。この状況で全員を守りながら退くのは難しい、そう判断した瞬間、自然と結論は一つに絞られた。
なら、私が囮になってみんなを逃がすしかない。
サクラ「名前……」
『大丈夫だよ。私が時間を稼ぐからみんなで逃げて』
サクラ「そんな……! 名前が死んじゃう!』
『大丈夫』
そう言って、笑ったつもりだった。けれど、サクラの震えは止まらない。視線をサスケへ向けると、彼もまた、不安を押し殺したままこちらを見ていた。その瞳に宿る怯えを目にするたび、胸の奥で煮えたぎる感情が、さらに強くなる。私は拳を強く握りしめた。
『遅れてごめん。だいぶ遠くまで吹っ飛ばされちゃって、戻るのに時間かかった。みんなが戦ってくれたんだから、次は私の番。だから……ナルトとサクラを連れて、ここから離れて』
言葉を紡ぎながら、胸の奥にあった想いが少しずつ形を持っていく。初めてできた仲間。守りたいと思えた人たち。だからこそ。
『絶対に死なせない。みんなのこと。大丈夫、死なないよ。私、頑張るから』
その言葉に迷いはなかった。みんなを元気づけるため、そして自分の覚悟を確かめるために、そう口にする。
サスケ「……んな」
『えっ』
サスケ「ふざけんじゃねぇ!死ぬ気だろうが‼︎」
強い力で襟を掴まれ、無理やり引き寄せられる。視界いっぱいに広がる紅い写輪眼。その迫力に思わず息が詰まった。
サスケ「顔に“怖い”って、思いっきり出てんだよ‼︎そんな顔でカッコつけんな。ダサいんだよ‼︎」
『……怖いよ。…だって…初めてできた仲間を失いたくないんだから!!』
負けじと声を張り上げてぶつける。私だって譲れないものがある。その想いごと叩きつけるように言い切ると、襟を掴んでいた指の力が、ほんのわずかに緩んだ。
サスケ「ククッ……ははっ…ほんっと、うざいなお前」
『……えっ、いっ、痛っ⁉︎』
次の瞬間、額をぶつけられ情けない声が漏れる。
サスケ「どう考えても、お前一人じゃ時間すら稼げねぇよ。だから、俺ら二人で倒すぞ」
『でも、サスケ……』
サスケ「うるせぇ。あれなら倒せんだろ」
その言葉に、胸の奥がじわりと熱くなる。サスケがやろうとしていることはすぐに分かった。修行では一度も成功しなかったあの連携。それでも視線が合った瞬間、なぜだか分かった。
必ずできるって。
『やる‼︎』
迷いはなかった。
