旅立ち編
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砂の里を見下ろす高台で、風が吹き抜けていく。風影になってから、一人で考え事をする時間が増えた。下す判断の一つひとつに里の未来がかかっている。背負う責任も、守るべきものの重さも、昔とは比べものにならない。それでも、不思議と孤独ではなかった。
風に目を細めながらふと思い出す。最後にお前を見た日のことを。木ノ葉から応援要請が届いたあの日。病室のベッドに横たわる、お前の姿が脳裏によみがえった。
深い傷を負い、意識を失ったままの体。呼吸に合わせてかすかに上下する胸元だけが、生きている証だった。声をかけても返事はなく、その沈黙が胸の奥に重く残った
〝助けたいと思うくらいには、大切に思ってる〟
いつか、お前が口にした言葉。俺のことを大切だと。ナルトの言葉と、その一言は、あの頃の俺を確かに救っていた。静まり返った病室。誰もいない空間の中で、気づけば手が伸びていた。指先がそっと頬に触れる。
ガアラ「……温かい」
かすかに漏れた呟きは、自分でも驚くほど小さかった。確かな体温が指先から伝わり、静かに胸の奥へ広がっていく。人に触れることで、こんなにも心がほどけるものなのか。俺は、この感覚を知らなかった。
孤独の中で生きてきた俺には、人の温もりはあまりにも遠いものだったから。だからだろうか、もっと確かめたいと思った。無意識のまま身をかがめ、ゆっくりと顔を近づける。聞こえるのは規則正しい呼吸だけで、生きている証がすぐそこにあった。
あと少し、あと少し近づけば触れてしまう距離。
だが、そこで止めた。
それ以上は踏み込まなかった。
今は、まだだ。
あの時の俺には、伝える資格がないように思えた。守られるだけだった自分も、誰かを傷つけることしか知らなかった自分も、まだ何一つ乗り越えられてはいなかったから。
だから決めた、必ず変わると。お前が見せてくれたものを無駄にはしないと。そう心に誓い、俺は静かに病室の扉を閉めた。
そして今。俺は風影としてこの里を守っている。血でもない、恐怖でもない。人と人との繋がりによって、この里を支えていきたいと願っている。
高台から見下ろした砂の里には、人々の暮らしがある。行き交う声があり、笑顔があり、未来を語る子どもたちがいる。かつての俺には想像もできなかった光景だった。
見てほしい、この里を。俺が守りたいと願った場所を。そして、その時が来たら伝えたいことがある。あの日の病室では言えなかった言葉。触れることしかできなかった想い。
今はまだ胸の奥にしまっておく。だが、いつか必ず、風影としてではなく、一人の男としてお前の前に立つ。
その時こそ伝えよう。
この里のことを。
俺が歩いてきた道を。
そして、ずっと胸に抱えてきたこの想いを。
お前に、すべて見せたい。
