サスケ奪還編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
テマリ「おい……なんだ、あの姿は⁉︎」
鋭い声が飛ぶ。
だが、その問いに答えられるやつはいない。
シカマル「くそっ……俺だって、初めて見るよ!」
目の前で、名前がこちらへ躍りかかってくる。呼び止めても、怒鳴っても、声は一切届かない。そそこにあるのは理性を失った瞳。焦点の合わない目で、最短距離で距離を詰めてくる。動きは鋭く、無駄がない。まるで獣だ。完全に暴走してやがる。
だが、もっとまずいのはあいつの体だった。腹部を裂く、深い傷。止血もされていない血が、動くたびに地面へ落ちる。本来なら、立っていることすら不可能な状態だ。それなのに速度も威力も、さっきより明らかに上がっている。
このままじゃ、死ぬ。その確信が背中を冷たく撫でた瞬間、脳裏に嫌な記憶がよぎる。木ノ葉の門前。任務に出る直前、あいつにふいに呼び止められた、あの時。
『シカマル、もし私が暴走したら……殺してでもいいから、止めて』
シカマル「……物騒なこと言うなよ」
『本気だよ。被害を増やさないために』
冗談じゃなかった。
覚悟を決めた忍の目だった。
でも……
シカマル「ぜってー嫌だね。アホかお前は」
『んな⁉︎ 私は本気で……』
シカマル「誰が好き好んで……ス……仲間を殺すかよ。なんかあんだろ。暴走を止められる方法」
あいつは、きょとんと目を瞬かせた。予想外だった、って顔で。それから、少し困ったみたいに力の抜けた笑いを浮かべた。
そして今、目の前で理性を失い、血を流しながら迫ってくる姿と、あのときの間抜けなくらい素直な笑顔が、どうしても重なる。……ふざけんな。〝殺して止める〟なんて選べるわけがない。考えろ、考えろ、必ず別の手がある。
俺は歯を食いしばり、視線を逸らさず、迫りくる彼女を睨み据えた。ここで折れたら、あいつとの約束も、自分自身も全部嘘になる。
名前の一撃を、間一髪でかわす。地面が抉れ、風圧が頬を打った。次から次へと繰り出される攻撃を避けながら、テマリに声を飛ばす。
シカマル「……まず、脅威はスピードだ。チャクラを全身に纏って、身体能力が跳ね上がってる。反応も加速も、人間の域じゃねえ。近づかせるのは致命的だ」
一瞬の油断が即死につながる。
シカマル「それに、口寄せもある。チャクラを弓みたいに変形させて、飛ばしてくるらしい」
正直に言えば、俺自身、実物はまだ見ていない。軌道も、速度も、威力も情報が足りなすぎる。
シカマル「……つまりだ。どっちも得意ってわけだ……詰んでる」
言ってから、思わず舌打ちした。ふざけんな、こんな最悪の条件を並べた上で、〝止め方は任せる〟なんて。本当に……めんどくせーやつだ。だが、逃げる気は最初からない。あいつが信じて預けたのは、俺の頭だ。だったら、やることは一つしかねえ。
考えろ。
可能性を洗い出せ。
一瞬でいい。止める隙を作れ。
シカマル「……おい」
短く呼ぶ。それだけで、テマリは即座に察したように視線を寄こした。説明はいらない。迷っている時間は、もうない。
テマリ「分かった。引きつけりゃいいんだな」
次の瞬間、テマリが大きく前に出る。名前を引きつけながら攻防を繰り返し、風を裂く一撃が放たれる。注意が、完全にそちらへ向いた。
今だ。地面に、影が伸びる。
シカマル「影真似の術……!」
影が、名前の足元を捉えた。
一瞬、確かに止まる。
シカマル「っ……!」
影が、悲鳴を上げた気がした。名前の身体が、常軌を逸した力で軋む。見えない何かを引きちぎろうとするみたいに、筋肉が膨張し、関節が悲鳴を上げる。地面に伸びた影が震え、細かく波打ち、拘束がほどけかけた。くそっ……長くはもたねぇ。
テマリ「おい⁉︎ ここで逃すなよ!!」
分かってる。ここで振り切られたら、もう二度と止められない。気づけば体が先に動いていた。距離を詰める。影の拘束が弱まるその一瞬を逃さず、逃げようとする彼女の身体を、力いっぱい抱きしめた。
血と汗の匂いが鼻を突く。腹の傷から滲む生温い感触。折れそうなほど細い身体が、腕の中で必死に暴れる。
シカマル「……やめろ!!」
喉が裂けるほど声を張り上げた。理屈じゃない。作戦でもない。ただ、必死だった。
シカマル「戻ってこい!! サスケにも言いたいことがあったんだろ。伝えないままっての、お前らしくないだろ!!」
腕に力を込める。
逃がすもんか、ここで離したら終わりだ。
シカマル「…それに、お前が…お前がいなくなったら……!」
言葉が続かなかった。頭で組み立てた作戦も、理屈も、全部吹き飛んでいた。ただ、失いたくない。それだけだった。その瞬間、腕の中の体から、ふっと力が抜けた。暴れていた指が止まり、張り詰めていたチャクラが、静かにほどけていく。名前の肩が、小さく震えた。
『……ごめん』
掠れた声。
涙が、腕に落ちる。ぽたり、と。何度も。
『……ごめん、シカマル』
その一言で胸の奥がぎゅっと締めつけられた。張り詰めていたものが切れて、代わりにどうしようもない安堵が込み上げる。
シカマル「……バカ」
自分でも驚くほど声が震えていた。
シカマル「俺が言っただろ。仲間を見捨てる選択肢なんか、最初からねぇんだよ」
抱きしめる腕にほんの少しだけ力を込める。逃がさないためじゃない。ここにいるって、確かめるためだった。
『……これ、返さなきゃ……だしね』
そう言って、耳を指さす。俺が渡したピアスは、血で汚れながらも、確かにそこにあった。
シカマル「きたねーから、もう少し預けとくよ。綺麗にして返せ」
『……ハハ……本当に……ごめんね……』
シカマル「……だから、勝手に謝んな。戻ってきたなら、それでいい」
腕の中で彼女は小さく息を吸い込み、声にならない嗚咽を漏らす。その重さ、体温、微かな震え。…生きてる。それがはっきり伝わってきて、ようやく胸の奥から息を吐くことができた。
テマリ「……お前、こいつに惚れてんのか」
空気を読まない声が飛んでくる。
シカマル「うるせぇ」
短く返しながらも、腕を離す気にはなれなかった。
