中忍選抜試験編 前編
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あ、やばい。
完全に言い間違えた。
ここ数日、誰かさんの修行に付き合わされ、その上、その誰かさんがなかなか部屋に戻らないせいで、寝不足が続いている。若さとは恐ろしい。蓄積した疲労のせいか、言葉を選ぶ余裕なんて、とっくに削げ落ちていた。とはいえ、今のはさすがにまずい。目の前の女が振りかぶる平手打ちを避けるか受けるか、判断が一瞬遅れる。
「……このクズ」
反射的にその手首を掴んでいた。しまった、と思った時には遅い。女は苛立ったようにその手を振り払い、そのまま早足で去っていく。火に油、ってやつか。近くの柱に背を預け、ひとつ、深く息を吐いた。
やれやれだ。
『またですか、カカシ先生』
少し不機嫌そうな声に振り向くと、買い物袋を提げた擦り傷だらけの名前が立っていた。身なりを気にしないその様子が、逆にこいつらしい。
カカシ「まあ、大人の事情ってやつかな」
肩をすくめて誤魔化すと、案の定呆れたような視線が返ってくる。
『……平手打ちされる〝大人の事情〟なんて、私は知りたくないです』
カカシ「ハハ。名前も年頃なんだから、恋話の一つや二つあってもいいだろ」
『二つもあっていいものなんですか?』
カカシ「……時と場合によるね」
『だから、さっきみたいになるんじゃないですか』
痛いところを突く。思わず言葉に詰まり、視線を逸らして曖昧に笑うしかなかった。ほんと、遠慮がない。名前は一人で暮らしてきたせいか、年齢のわりに妙に大人びている。物怖じしないというか、核心に踏み込むことを躊躇わないというか。出会った頃の初々しさは、いつの間にか影を潜めていた。
カカシ「悪かったよ。ほどほどにする」
『私には関係ありませんので、ご自由に』
カカシ「なんか最近冷たいよね」
『何回、同じような現場見せられてると思ってるんですか』
カカシ「それは本当に…ごめんよ」
素直に頭を下げれば、すぐさま呆れた声が飛んでくる。
『それも何回目ですか…それより、今からご飯なんですけど、カカシ先生食べてきますか?』
相変わらず切り替えが早い。きっと興味がないのだろう。さっきまでの会話が嘘みたいに話題を変えられて、思わず言葉を失う。名前は部屋の方を指差し、何事もなかったかのように言う。
『あけておきます』
先に歩いていく背中を見送りながら、自然と苦笑が漏れた。最初こそ驚いたが、もう何度目だろう。
カカシ「……本当に、扱いに困るな」
ぼやきながら向かった部屋は、案の定、鍵が開けっぱなしで、スリッパまで用意されていた。ため息まじりに中へ入ると、名前はすでに夕食の準備を整えている最中だった。手際よく並べられていく皿。立ち上る湯気と、食欲をそそる香り。彩りも悪くない。初めて招かれた時は、〝交流の一環〟くらいにしか思っていなかった。それが今じゃ、完全に胃袋を掴まれてる。
カカシ「本当に、うまそうなご飯だ」
