サスケ奪還編
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サスケに突然キスをされ、想いをぶつけられた昨日から、胸の奥はずっと落ち着かなかった。拒絶してしまった瞬間、サスケが見せた表情がどうしても頭から離れない。苦しそうで、追い詰められたみたいで。まるで、どこにも逃げ場がない人みたいな顔だった。
仲間として信じていた存在が、あんなふうに感情をぶつけてきた。私はどう受け止めればよかったんだろう。何を返すのが正解だったんだろう。考えれば考えるほど、胸の奥がぎゅっと締めつけられていく。
食事は喉を通っても味がしないし、布団に入っても眠れなくて、気づけば朝になっていた。ぼんやり窓の外を眺めながら、意味もなく時間だけが過ぎていく、そんな時だった。
コン、コン――。
控えめなノックに応じて扉を開けた瞬間、そこに立っていたシカマルが、私の顔を見るなり露骨に眉をひそめた。
シカマル「……ひっでぇ顔だな。何があったかは知らねぇけど、まともじゃねー」
言い返す言葉も見つからなくて、私はそのまま視線を逸らす。そんな私を見て、シカマルは小さく息を吐き、少しだけ間を置いてから低い声で続ける。
シカマル「……サスケが、里を抜けた」
『……えっ』
シカマル「サスケを追う班に加わってくれ。ナルトが、真っ先に“お前も絶対必要だ”って言ってた」
『……私が?』
思っていた以上に声が震えていた。不安、動揺、そして胸の奥に重く沈んだ後悔。全部がぐちゃぐちゃに混ざって、自分でも驚くほど弱々しい声になる。頭に浮かんだのは、たった一つの疑問だった。
私に追う資格なんてあるのだろうか。
私は、サスケの気持ちにちゃんと向き合えなかった。突然ぶつけられた感情に戸惑って、拒絶して、逃げることしかできなかった。そんな私が今さら追いかけていいのか、サスケは私に何を求めていたのだろうか。あの時、本当は何を伝えたかったか。考えれば考えるほど、思考が絡まっていき、答えなんて一つも見つからない。黙り込む私を見ながら、シカマルが小さく溜め息をつく。
シカマル「……サスケと何かあったから、そんな顔してたのか。ったく……ウジウジしてんなよ」
『でも、私…サスケを傷つけて…』
シカマル「らしくねぇだろ。お前は、仲間をぜってぇ見捨てねぇやつだ。今、お前の大切な仲間が、敵の手に行こうとしてんだ。守れなかったら……一生後悔すんぞ」
その通りだった。頭では、痛いほど分かっているのに、それでも怖かった。サスケの気持ちに向き合うことも。また言葉を間違えて傷つけてしまうことも。
『それに……サスケに……どう答えれば……』
シカマル「……お前さ、難しく考えすぎなんじゃねぇの? 別に、思ってることそのまま伝えたらいいだけじゃねぇか。アホだなー、お前は」
『…っ。アホって、私これでも真剣に!』
シカマル「…悩むなとは言わねぇ。でもな、悩むなら、サスケに会うまでの時間、全部使え。会ったら、ぜんぶぶちまけろ。俺たちにはお前が必要なんだよ、逃げんなよ。お前らしくねぇ」
胸の奥で、固く閉じていた何かが、じわりとほどけていく。逃げたかったわけじゃない。ただ、どうすればいいのか分からなかった。でも、会わなきゃ何も始まらない。深く息を吸い込み、私は拳をぎゅっと握った。
『…行く。サスケを必ず連れ戻す。ちゃんと…話す』
震えていたはずの声が、不思議と少しだけ真っ直ぐになっていた。その返事を聞いて、シカマルは「やれやれ」と肩をすくめる。
シカマル「最初からそうしてりゃいいんだよ」
呆れたように笑うその顔は、どこか少し安心したようにも見えた。
門へ向かう道を早足で進みながらも、胸の奥のざわつきはまだ完全には消えていなかった。それでも足はちゃんと前に出ている。さっきシカマルに叱られたおかげだろう。迷いは消えていない。ふと、隣を走るシカマルの横顔を見る。気づけば自然と口が開いていた。
『……ねぇ、シカマルってさ』
シカマル「んー?」
『やっぱり、いいやつだよね』
その瞬間、シカマルの足がほんの一瞬だけ止まった。わずかに肩が跳ね、それから何事もなかったように再び走り出す。
シカマル「……は? なんだよ、急に」
ぶっきらぼうな声だったけれど、横顔を見ると耳の先がほんのり赤い。それに気づいた瞬間、思わずくすっと笑ってしまった。
『いや、本当に。ちゃんと叱ってくれて、ちゃんと支えてくれて……さっき、すごく救われたから。ありがとう』
シカマル「……お前に、暗い顔は似合わねーよ」
ぶっきらぼうな言い方。きっと照れ隠しなんだろう。でも、その言葉は不思議なくらい真っ直ぐ胸に落ちてきて、じんわりと心を温めた。
『はは……ほんとだね。シカマルが仲間で……ううん、友達でよかった』
その瞬間だった、ふと横から視線を感じる。隣を見ると、シカマルがわずかに眉間へ皺を寄せ、こちらを見ていた。何か言いたげな顔だけれど、口を開きかけては閉じる。珍しく歯切れの悪い反応に、私はきょとんと瞬きをした。
『……なに?』
不思議に思って首を傾げると、シカマルは小さく息を吐いた。
シカマル「……お前って、なんかずるいよな」
『え、なにが?』
本気で分からなくて聞き返すけれど、シカマルは答えず、わずかに眉を寄せたまま視線を逸らす。
シカマル「……なんでもねーよ」
低くそれだけ言うと、シカマルは歩幅を少しだけ速めた。まるで、この話を早く終わらせたいみたいに。
『……ずるい?』
取り残されながら、小さく呟く。変なことを言った覚えなんてないのに、胸の奥には理由の分からない引っかかりだけが残った。前を歩くシカマルの背中はいつも通りに見えるけれど、どこか少しだけ遠く感じる。その意味に気づかないまま、私は慌てて彼の背中を追いかけた。
