サスケ奪還編
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俺は、今まで何をしていたんだ。
ぼんやり空を見上げて、そんな言葉が喉奥で渦を巻く。
ナルトはもう昔のバカじゃない。戦うたびにチャクラは膨れ上がり、覚悟も力も見違えるほど変わっていく。ずっと俺の背中を追いかけてきたはずの落ちこぼれが、気づけば隣に立ち、今では前へ出ようとしている。その事実が胸の奥をざらつかせた。
いや、ナルトだけじゃない。
イタチとの距離も、縮まるどころかむしろ霞んで見えた。追っても、追っても届かない。力を求めてもまだ足りない。焦りだけがじわじわと胸に食い込んでいく。
そんな中で、もう一つ頭から離れない影があった。白銀の髪、風に揺れる後ろ姿。気づけばいつも少し遠い場所にいる。隣にいるはずなのに、何を考えているのかわからない。手を伸ばしても指の間をすり抜けていくような感覚。そのくせ、気づけば視線で追っている自分がいる。
苛立つ。ナルトにも、イタチにも。そして、そんなことで感情を乱されている自分自身にも。奥歯を噛み締め、強く拳を握ったその時、不意に足音が近づいてきた。
『サースケ』
聞き慣れた声に反射的に顔を上げると、振り返った先にいたのは名前だった。昼の光を受けた青い瞳が、まっすぐこちらを映している。いつもの調子、いつもの声。何も変わらないはずなのに、今の俺にはその明るさすら妙に胸に刺さった。
『ナルトと喧嘩したんだって? サクラから聞いたよ。ダメじゃん、女の子泣かせちゃ』
そんなことを言いながら、名前は当然みたいな顔で俺の隣に腰を下ろした。空気読めねぇ。いや、違う。多分こいつは読んだうえで来てる。放っておかないのは、こいつの性格だって俺は嫌ってほど知っていた。
サスケ「うるせぇ。……お前には関係ねぇ」
『サスケを治すために、ナルト死にそうになるくらい頑張ってたんだよ?』
その言葉が胸の奥を抉る。
サスケ「誰も頼んでねーだろ‼︎」
怒鳴り返した瞬間、彼女の肩が小さく揺れた。分かってる、こんなふうに当たったってこいつはいなくならない。いつもならそれが少し嬉しかったはずなのに、今の俺には苛立ちの材料にしかならなかった。俺に構うな、放っておけ。心の奥ではそう叫んでいるのに、結局それを口にすることはできなかった。沈黙が落ちる。気まずくなった空気を埋めるように、名前は何事もなかったみたいに話し始めた。
『……そういえばね、シカマルが上忍になったんだって。すごいよね、さすがシカマル。ナルトとも一緒に修行したんだけど…』
次々と仲間の名前を口にする明るい声。その声を聞きながら、不意にカカシの言葉が脳裏を掠めた。
〝俺もお前もラッキーな方じゃない。でも最悪でもない。大切な仲間が見つかっただろう〟
仲間がいることの強さも。失いたくないと思える存在がどれだけ大事なのかも、とっくに理解していた。それでも、イタチの影が俺を縛る。仲間と笑っている時間が増えるほど、逆に怖くなる。この温かさに甘えたら、復讐から目を逸らしてしまいそうで、そんな自分が許せなかった。
それに、今はこいつの口から他の男の名前を聞きたくなかった。無邪気に紡がれる名前が、妙に耳障りで胸の奥をざらつかせる。なんでそんな顔で、他の奴の話をするんだ。そんな理不尽な感情が喉元まで込み上げた。胸の奥で何かがぷつりと切れ、考えるより先に体が勝手に動いていた。肩越しに伸ばした手で、名前の腕を掴む。
サスケ「……もう、黙れよ」
驚いたように振り向いたその唇を、苛立ちと嫉妬のまま強引に塞いだ。逃げようと小さく揺れた肩を離したくなくて、指先に無意識に力が入る。顎を摘まんで上を向かせ、もう片方の手は腰をしっかり掴んでいた。引き寄せた体温が、驚くほど熱い。誰にも渡したくない。そんな身勝手な思いが頭の中を埋め尽くしていく。
『サス……っ』
小さく漏れた声に喉が焼けそうになる。呼吸を求めて開いた唇へ、舌を捩じ込む。深く、もっと深く、息を奪う勢いで口付けを落とした。自分のものじゃないみたいに心臓が暴れている。
やっと分かった。俺には余裕なんて一つもなかった。触れた瞬間から欲が止まらない。抱きしめたくて、繋ぎ止めたくて、太ももへ滑った指先に自分の本音が滲む。
ガリッ。
サスケ「っ……いって……」
口の中にじわりと鉄の味が広がる。思わず顔を離すと、名前が潤んだ瞳でこちらを睨んでいた。その視線に背筋がぞくりと震える。けれど同時に、遅れて現実が頭に追いついた。
『……サスケ、変だよ。なんでこんなこと……』
サスケ「お前が黙らねえからだろ。他の男の話ばかりしやがって」
自分でも何を言ってるのか分からなかったけれど、一度溢れた感情は止まらない。掴んだ腕に無意識に力が入る
サスケ「お前は、俺の隣にいたらいいんだよ‼︎ 俺の隣で笑って、戦ってれば……それでいいだろ‼︎」
『サスケ…どうしたの…いつも一緒にいるじゃん。それに、みんな仲間で友達で、サスケだって…』
サスケ「ハッ、仲間? それはお前だけだろ……もういいだろ、話してたってらちがあかねぇ」
視線を逸らす。これ以上ここにいたら、もっと酷いことをしてしまいそうだった。
サスケ「早くどっか行けよ。俺は今、お前と一緒の空気すら吸いたくねぇ」
『っ……サスケ』
小さく震えた声だけを残して彼女の姿がふっと消える。風だけがその場を通り抜けた。彼女は、ただ俺を元気づけたかっただけだって分かっていた。分かっていたのに、胸の奥に溜まり続けていた焦りも苛立ちも不安も、全部ぶつける相手を間違えた。
強く吹いた風が、まるで俺の愚かさを嘲笑うみたいに頬を撫でていく。
サスケ「……何やってんだ、俺は」
掠れた声が、誰もいなくなった空へ落ちた。
