サスケ奪還編
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『先に謝っときます』
そう言った瞬間、彼女はスッと両手を伸ばし——俺の頬を掴んで引き寄せた。治療直後で頭がぼんやりしていたせいか、抵抗する隙もなく身体がついていく。ほんの一瞬、布越しに触れた“柔らかい感触”。理解が追いつく前に離され、彼女は元の場所で何事もなかったように座った。静かで、落ち着いていて、まるで今の行為が“挨拶の続き”程度のものだったかのように。
カカシ「…………え?」
間抜けな声が、やけに静かな病室に響いた。
頬が熱いような、変な汗が背中をつたうような感覚だけが妙にリアルで、遅れて現実が脳に追いつく。……いやいやいや。今のは……本当に、今のは……?
そんな俺とは裏腹に、彼女は心底悪びれた様子もなく、すんと正面を見つめている。
カカシ「……え、いや……え?」
まだ言葉にならない俺の声だけが、情けなく空気を震わせた。
『先に謝ったじゃないですか』
まるで「今日はいい天気ですね」くらいの軽さで言う名前。いや、そういう問題ではない。さっきの“それ”は本当に現実か?頭が混乱しすぎて、一度天井を仰ぎ深呼吸する。大きく息を吐いてから、ようやく口を開いた。
カカシ「えっと……そうだな。うん。どうした? おじさんが悩み聞いてやろう」
『悩みなんてありませんけど?』
即答。あまりにも迷いのない返事に、逆にこっちが不安になる。
カカシ「いやいやいやいや、悩みなしで俺にキスする? おかしいでしょ。絶対なんかあったでしょ」
自分でも驚くほどテンパっている。単語しか出てこないし、声も変に上ずっている。それに対して名前の顔は相変わらず澄んでいて、まるで気にしているのが俺だけみたいじゃないか。再び深呼吸。落ち着け、俺。大人だろ。どうしてこんなことをしたのかと尋ねると、彼女は一呼吸おいて静かに答えた。
カカシ「つまりだ。カブトの気持ち悪い感触がどうにも忘れられなくて、誰かで上書きしたかったと」
『はい』
カカシ「……百歩譲って、上書きしたかったのは理解しよう。なぜ俺だ」
本当にそこが一番気になる。もっと他にいただろうに。歳の近い子とか、よりによってなぜ俺なのか。まさか好意の……という甘い期待は、一瞬で無残に斬り捨てられた。
『キスは安易にしちゃいけないものだと思ったので。その点カカシ先生なら、私がしたところで気にしないと思ったのでしました』
素直すぎる言葉の刃が、真正面から胸に突き刺さる。俺は道具か。そうか。便利な道具だったのか。いや、落ち着け。大人だろ。
カカシ「そーだよな。うん。お前、そういうところあるもんね。……んで、俺の貴重なキスは、ちゃんと効果がありましたか」
『……』
カカシ「なかったのね」
こいつ……本当に容赦がない。
俺が女性からのキスを許すの、割とレアなんですけど?と心の中で叫びつつも、彼女は悩んでいたわけだし、これ以上責める気にもなれない。
カカシ「そりゃそーだよ。好きでもないやつとしたところで、拭えるもんじゃない」
『そうなんですか?』
カカシ「……たぶんな」
俺も知らないけどな、とは言わなかった。
思い返してみれば、気づいた頃には自然とモテていた。付き合ったことも何度かあったし、向こうから好意を寄せられることも多かった。けれど、どの関係も長くは続かなかった。
任務で席を外すことが多いせいだけじゃない。自分自身が、誰かに本気で心を預けようと思う事がない。
キスだって、口説くため、任務のためと、手段として数え切れないほどしてきた。でも、胸の奥が動いたことは一度もない。ときめきとか、甘い感情とか……そういうものとは縁がなかった。今さら、心を揺らす相手なんて現れるだろうか。そう思うと、自然と期待もしなくなっていた。
だからこそ——。
カカシ「お前はまだ若い。いろんな人と出会って、素敵な男を見つけたらいいよ。……大丈夫。そいつには今日のこと、内緒にしておいてやるから」
自分で言うのもなんだが、こんな俺だからこそ言える言葉だった。俺の微笑みに、名前もつられてふっと笑った。話が終わると、彼女は『また明日、来ますね』と言って席を立つ。扉に手をかけた時、何か思い出したように振り返った。
『カカシ先生とのキス、そんなに嫌じゃなかったです』
そう微笑みながら扉を閉めていった。
病室に静けさが落ちる。
カカシ「……っ、はは……いや、ほんと……初めて言われたよ。調子狂うなぁ……」
額を押さえながら、どうしようもなく笑いが漏れた。
