風影奪還の章
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砂隠れへ向かう道中、前を走るナルトとサクラの背中を眺めながら、ふと意識が別のところへ逸れた。もう一人、ここにはいない存在。
ナルトと共に彼女も自来也様と修行の旅に出た。最初は行動を共にしていたが、途中から単独行動に移ったと聞いている。あいつらしいと言えば、実にあいつらしい。本当に人の心配を増やすのが得意なやつだ。
生きているのか死んでいるのか、そこまで極端な心配をしているわけじゃない。ただ、この三年あまりにも音沙汰がなさすぎる。嫌な予感と言うほど大げさでもないけれど、喉の奥に小さな棘が引っかかっているような感覚が、ずっと消えずに残っていた。
前を行くナルトは何も考えず全力で走っている。サクラは周囲に目を配りながら、確実に成長した背中を見せていた。それぞれが、それぞれの場所で前に進んでいる。なら、彼女もきっとどこかで強くなろうとしているはずだ。
そう考えていた時だった。サクラが、ずいっとこちらに寄ってくる。その表情を伺うと、嫌な予感がした。
サクラ「こんな時に言うことじゃないですけど、カカシ先生。看護師さんに手を出しすぎです。私の身にもなってください。“カカシ班だから”って理由で、私が代わりに頭下げてるんですよ?」
予感は的中。しかも、容赦のない苦情付きだ。ああ、これは……本気で怒ってるやつだな。
カカシ「ハハハ…それは、その…なんと言えばいいのかな」
言葉を濁した瞬間、サクラの眉がぴくりと動いた。
サクラ「笑い事じゃなーい‼︎ 仕事に支障が出てます!本当、名前が隣にいた時の方が、まだマシでした!あの子がいれば、抑止力になってたのに!」
その名前に思わず歩みが止まりかけ、足先に余計な力が入った。
カカシ「……ごめん。気をつけるよ」
サクラ「約束ですからね!」
有無を言わせない迫力に思わず冷や汗が滲む。サクラの言う通り、この三年は味気ない日々を紛らわせるような生活をしていたと思う。隣で振る舞われる、あのうまい飯もない。くだらない会話を返してくる相手もいない。そんな時間がいつの間にか当たり前になって、気づけばどこかで似た誰かを探している自分がいた。
サクラにも指摘されたし、少しは自粛した方がいいと胸の内で小さく反省しながらも、それを表情に出すことはない。視線を前へ戻し任務に集中する。余計な感情はしまい込んでおくに限る________
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砂隠れに足を踏み入れた瞬間、想像以上に張り詰めた空気が肌を刺した。運び込まれたカンクローは全身を毒に侵され、すでに限界に近かった。状況を一目で把握したサクラは余計な言葉を挟むことなく、すっと表情を引き締めた。
迷いのない動きで、指先ひとつ震えない。綱手様のもとで積み重ねてきた時間と技術が、今この場ではっきりと形になっていた。処置が始まったその時、近くに控えていた砂の忍がぽつりと呟く。
砂忍「……カンクローは、女性に助けられて運ばれてきました。あの者が現れなければ、とっくに命はなかったでしょう」
思わず、視線を向ける。さらに詳しく話を聞くと、その人物は木ノ葉の忍だという。だが、名も所属も告げずにいるらしい。状況確認のため、この場はサクラに任せることにし、俺とナルトは砂忍に案内され彼女が滞在している場所へ向かう。
夕日が砂色を濃く染める通路。その奥にひとり立つ人物がいた。黒いマントを深くかぶり、顔は見えない。だが、纏う気配は静かで……どこか、懐かしい。ナルトが勢いのまま声を張り上げる。
ナルト「お前が助けてくれたやつか!本当にありがとな‼︎」
マントの人物がぴくりと肩を震わせ、ゆっくりとフードを押さえながらこちらを振り返る。
『……ナルト?』
その声が耳に届いた瞬間、胸の奥で小さく何かが爆ぜた。風がフードを持ち上げ、隠されていた姿があらわになる。こぼれ落ちたのは長く艶やかな白髪。砂の光を受けて滑らかに揺れていた。そこに立っているのは、かつての“少女”じゃない。雰囲気も佇まいも、纏う空気さえもはっきりと変わっている。
大人になった。強くなっている。そして……綺麗になりすぎていた。けれど、何度も見てきた青い瞳。耳に焼きついたあの声は間違えるはずがなかった。
カカシ「名前……お前、なのか」
自分でも驚くほど低く、抑えきれない色を含んだ声が零れた。ナルトが勢いよく彼女に駆け寄る。
ナルト「名前!? なんだお前だったのか!離れてからずっと心配してたけど、無事でよかったってばよ!」
彼女は、ふっと微笑んだ。
『ちょうど一年半くらいだよね。ナルト、大きくなったね。すっごくカッコよくなった!……カカシ先生はー、変わらずですね』
ナルトが照れ笑いし、彼女がくすっと笑う。その一連の光景を俺は一歩遅れて見つめていた。三年ぶりに見る横顔、嬉しそうに細められた瞳、柔らかく弧を描く唇。
懐かしいはずなのに同時にどこか別人のようで、思わず息を呑む。視線を外すべきだと分かっているのにできなかった。目で追うたび知らない表情を見つけるたび、胸の奥が静かにざわつく。
カカシ「……綺麗になったな」
よく使うはずの言葉だった。軽く流すための便利な一言のはずだった。けれど、この時だけは違う。飾りも下心もない、ただ心の奥に沈んでいた感情が、ふと口をついて出ただけの。紛れもない本音だった。
