出会い編
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『カカシ先生』
少し恥ずかしそうに、彼女は小さな声で俺の名を呼んだ。その控えめな響きに、一瞬だけ意識が引き寄せられて、可愛らしい、なんて感情が浮かんでしまったことを、今でもはっきりと覚えている。らしくないな、とそんな自嘲が胸の奥をかすめた。
ナルトたちと初めて顔を合わせた時から感じていた、人付き合いの不器用さ。どこか一歩引いた距離の取り方に、これまでの環境がそのまま表れているようだった。人里離れた場所で育ったのなら、無理もない。だからこそ、これから先のことを考えれば、少しずつでも人との距離感に慣れさせておいた方がいいだろう。
そう思っていた。あくまで任務の一環として、保護と監視、その延長線上で。それなのに、まさかこの日の自分を思い返して。彼女が誰とでも自然に笑っている姿に、ほんの少し胸がざわつく日が来るなんて。この時の俺はまだ、想像もしていなかった。
『カカシ先生、全部捕まえちゃいましょう』
カカシ「えっ」
馴染むのに時間はかからなさそうだな、そう安堵したのも束の間だった。不意にかけられたその一言に、一瞬、意味が分からず思考が止まる。だが、その真意はすぐに明かされた。
『ここから見ると、迷い猫や犬は十頭くらい。他の二班が動いてるから、残り八頭は放置された子たち。距離も近いし……捕まえられるよ』
淡々と告げられた内容に思わず視線を向ける。澄んだ青い瞳が大きく開かれ、まるで獲物の位置を正確に捉えるかのように、一点を射抜いていた。どうしてそこまで分かったのか、問いかけるよりも早く、彼女は言葉を重ねる。
『カカシ先生が出たら意味ないんだよね。相手、動物だし。いいでしょ?』
小さく首を傾げ、こちらを見上げてくるその表情には、一切の迷いがなかった。次の瞬間、彼女は躊躇なく倒れ込むように前へと跳び出し、そのまま木の上から飛び降りた。
カカシ「ちょ……まじですか」
反射的に手を伸ばしたが、掴めたのは空気だけだった。思わず舌打ちしそうになるが、その焦りはすぐに消える。枝から枝へ風のように軽やかに駆け抜けていくその姿に思わず目を細める。
合流した名前は自分の考えを手短に説明した。最初こそナルトたちは何を言われたのかわからず呆気に取られていたが、すぐにその意図を理解したらしい。
『そっち』
名前の声を合図に、それぞれが散るように動き出す。追い込まれた猫たちは行き場を失い、一匹、また一匹と確保されていった。結果、第七班は八頭の迷い猫と迷い犬を無事に捕獲。任務は制限時間内に終了し、依頼主からの評価も上々だった。普段あまり褒められないせいか、ナルトもサクラも、そしてサスケでさえ、ほんのわずかに誇らしげな表情を浮かべていた。
ナルト「名前ってば、すげーってばよ! なんで場所わかったんだ?」
『森で暮らしてたから……たぶん、普通の人より目がいいの。それに、気配も少し分かるから』
興奮したナルトが次々と遠くのものを指差すたびに、名前は迷いなくその位置や数を正確に言い当てていく。その様子にナルトは目を輝かせたままぐっと身を乗り出した。
ナルト「すげーってばよ! そんな目があったら最強じゃねーか! お前、忍になれってばよ!」
『私が……忍? 忍術も使えるか分からないし、戦えるかも……』
サスケ「忍に必要なのは忍術だけじゃない。その感知能力は十分武器になる。この班にはない力だ」
ナルト「だろ!? オレもそう思ったってばよ!」
サスケ「……お前は黙ってろ、ウスラトンカチ」
ナルト「なんだとぉ!?」
いつものように言い合いを始める二人。俺は小さく息をつきながら、名前の肩にそっと手を置いた。
カカシ「今日ずっと見てたけど、お前の感知力と情報処理は本当にすごい。戦闘や忍術はこれからでもいい。身のこなしも悪くないし、基礎を身につければ……かなり伸びると思うよ」
その言葉を聞いた彼女は静かに息を呑んだ。横顔に浮かぶ瞳がわずかに揺れる。迷いも、不安も消えたわけじゃないけれど、その揺らぎの奥には確かな意志が芽生えていた。
そして翌日、火影様へ報告を行い正式な了承が下りた。名前は、わずか一週間でチャクラの基礎を身につけ、影分身を二体同時に生成することにも成功し、正式に木ノ葉の下忍となった。その成長は誰が見ても異例だった。
カカシ「……ま、いっか」
誰に聞かせるでもなく小さく呟く。〝才能〟そう言ってしまえば、それまでだ。だが、胸の奥には小さな引っ掛かりが残っていた。一週間という期間。いくら素質があったとしても、ここまで飲み込みが早い例はそう多くない。
まあ、今は深く考える必要もないか。
幸い、あの子は俺の班だ。
気になるなら、見ていればいい。
これから先も、その成長を。
そして、その力の正体も_______。
