中忍選抜試験編 後編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
カカシ「ちょうどいいところに。今日は任務に付き合って」
第三試験に向けて特訓を頼もうと、隣人の扉に手をかけたその瞬間だった。ノックする前に扉がひとりでに開き、いつもの気だるげな表情のまま、彼がそう言った。
今回の任務は、小さな商隊の護衛。
カカシ「フォローはするから、自由に動け」
短くそう告げると、彼は迷いなく地を蹴る。一瞬遅れて私もそれに続いた。視界に入るのは粗雑な動きの山賊たち。数も多くない。いつもの私なら、問題なく対処できるはずの相手だ。けど、今の私は調子がいいとは言えない。戦うたびに、どこか引っ張られるあの感覚。この任務はただの護衛のはずだけれど、嫌な予感だけがやけに鮮明だった。
そして、その不安はすぐに現実になる。
焚き火の前で膝を抱えて俯く。ぱちぱちと薪が弾ける音だけが、やけに大きく耳に残った。また〝囁き〟に気を取られて足を引っ張った。あと少し、カカシ先生が遅れていたら、死んでいたかもしれない。指先に残る震え。ぎゅっと膝を抱え直した。
『……弱いな、私……』
カカシ「珍しいな。お前が、そんな顔するなんて」
顔を上げると、彼は焚き火の明かりに照らされながら、木に寄りかかっていた。揺れる炎が銀の髪に淡く映り込む。視線が合い、逃げ場がなくて言葉が零れた。
『第二試験のことが……どうしても頭に残ってて。理性を失って暴れたら……敵だけじゃなく、仲間まで傷つけるんじゃないかって思うと……体が、動かないんです』
カカシ「お前の中で何が起きてるのか……正直なところ、俺にも全部は分からない」
静かな声。彼は少しだけ目を細めた。いつもの気の抜けた調子とは違う、ほんの少しだけ鋭い視線。
カカシ「でもさ。それ、多分だけど……お前が本気でやばいって思った時に、濃く反応してる気はするよね……」
言葉に促されるまま思い返す。
大蛇丸に地面へ叩きつけられた時。
我愛羅に潰されかけた時。
カブトに腕を折られた時。
どれも命の危機だったあの時、確かに何かが開いた。それを境に、戦闘に入るたびあの〝囁き〟は少しずつ強くなっていった。最初はただの違和感だったのに、今はもう無視できないほどになっている。焚き火の音に紛れて、耳の奥で微かに〝何か〟が笑った気がした。
カカシ「まず大前提な。瀕死にならないこと。……まあ、忍やってりゃ無茶は避けられないけどさ」
軽く肩をすくめる。冗談めいているのに、その言葉はやけに重く胸の奥に沈んだ。
カカシ「だから今のお前に必要なのは、あの囁きに振り回されないためのトレーニングだ。体じゃなくて、心のほうな」
『……精神の、トレーニング……』
カカシ「ああ。帰ったらすぐ始めるぞ。心配すんな。お前なら、ちゃんと制御できるようになる。……俺が、面倒見るからさ」
その言葉が不思議と胸に残った。根拠なんてないはずなのに、すとんと心に落ちてくるような安心感に、気づけば少しだけ肩の力が抜けていた。次の瞬間、わしゃ、と頭を撫でられる。今日はその手がやけに温かく感じた。
『カカシせんせ……っ』
そのまま視線を辿った先で息が止まった。焚き火の光に照らされた横顔。いつも覆われているはずのマスクが外れていたから。初めて見る素の横顔に、目を逸らすことができなかった。
いつも一緒に食事をしているはずなのに、一度も見たことがなかった。どうやって食べているのか、気になってはいたけれど、まさかこんな形で見ることになるなんて。
カカシ「ん? ……ああ、しまった。……そんなに見られると、照れるんだけど」
視線に気づいたらしい。少し照れたように頬をかき、マスクを戻す。ほんの一瞬だったはずなのに、その光景だけがやけに鮮明に残っていた。
『女たらしのカカシ先生が、なんでモテるのか……ずっと不思議だったんですけど』
カカシ「ん……えっ?」
『今日、分かりました。それ、凶器ですね』
カカシ「え?え?俺、褒められてる? それとも、貶されてる?」
『どっちもです。でも……不用意に晒さないほうがいいですよ』
本気で、そう思った。あんな素顔を見せられたら、隣人の玄関に女性が列を作りかねない。今でも十分そうなのに、これ以上増えたら収拾がつかなくなる。しかも、あの口元のホクロ。ずるいくらい色気があった。普段は隠れているせいで、不意に見せられたら余計に質が悪い。
小さくなっていた焚き火に薪をくべると、ぱち、と火の粉が弾けた。その横で先生がぼそりと呟く。
カカシ「……そんなに、見せてないんだけどな……」
素顔を見せなくても十分モテている、そんな意味だと思った。だから私は何も返さず、ただ揺れる火を見つめる。まさか、付き合いのある女性たちの誰ひとりとして、彼の素顔を知らないなんて。そんなこと、想像する理由もなかった。
