中忍選抜試験編 前編
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カブト「……くっ」
予選で名前に蹴り上げられた顎は、医療忍術で治療したはずだというのに、まだ鈍い痛みが残っていた。眉間を指で押さえる。本来なら、とっくに完治しているはずだ。
それでも痛むのは、あの瞬間の攻撃に何か異質な力が込められていたからだ。そうとしか思えない。まるで、体の奥に残っているような感覚。舌打ちを飲み込みながら、その違和感を確かめるようにゆっくりと息を吐いた。その背後に蛇のように冷たい声が落ちる。
オロチマル「ククッ…カブト。ずいぶん手こずったようじゃない?」
カブト「いやぁ、油断しました。ちょっと隙を突かれました」
オロチマル「……本当に、〝隙〟かしら?」
その一言で、空気が変わった。
カブト「…………」
軽口で流すつもりだった言葉は、形になる前に消えた。大蛇丸様の声は、いつもと変わらず柔らかいはずなのに、底知れない冷たさがじわりと背筋を這い上がる。最初から誤魔化せる相手じゃないのは、分かっている。
顎に触れながら目を伏せ、あの戦いを思い返す。最初は、あの子の力量を測るつもりで、あえて手を抜いていた。だが、勘が鋭い上に術の扱いも無駄がない。予想以上に厄介だった。深入りすれば、こちらの素性に勘づかれる可能性もある。リスクに見合わない。
だからこそ、早めに見切りをつけて処理するつもりだった。あの程度の相手ならそれで十分なはず。なのに、勝負が決まる直前、朦朧としていたはずの名前が、折れた腕を抱えたまま立ち上がった。
面倒だ。
心の底から、そう思った。大蛇丸様には悪いが、この程度の駒なら消してしまっても問題ない。そう判断し、迷いなく背後へ回り込む。その瞬間、あの瞳がこちらを見ていた。意識が飛びかけていたはずの目が、はっきりと焦点を結び、まっすぐにこちらを射抜く。
ぞくり、と。
背筋を何かが撫でた。あれは、戦意を失った者の目じゃない。獣が獲物を捉えた時のような、鋭く研ぎ澄まされた光。反応が遅れたわけじゃない。単純に僕の動きが読まれていた。そして気づいた時にはもう遅い。視界が反転し、次の瞬間には地面へと叩きつけられていた。
カブト「で、僕は。ご期待通りの働きはできましたか?」
皮肉めいた笑みを浮かべながら問いかける。だが、背中にはじわりと薄い汗が滲んでいた。あの一瞬が頭から離れない。
オロチマル「十分よ。フフ……木ノ葉は、サスケ君以外にも実に面白い子を送り込んでくれるわねぇ」
愉しげに細められた目。その奥にある興味がはっきりと感じ取れる。
カブト「……あの子、一体何者なんです?」
オロチマル「あなたが知らないのも当然よ。〝幻の一族〟なんだから」
カブト「……幻の……?」
その言葉に、ただならぬ血統と秘術の気配を感じ取る。
オロチマル「まだ確証はないけれど……ほぼ間違いないわ。あの一族は少人数で構成され、記録を残すことを“禁じられた”一族。存在を知る者は、極めて少ない。だから〝幻の一族〟と呼ばれているの」
愉悦を含んだ声。
それなのに、妙に静かで不気味に響く。
カブト「……記録を禁じる一族、ですか。厄介ですね」
思わず口にした言葉は、半分は事実で半分は探りだ。情報がない相手ほど、扱いづらいものはない。
オロチマル「私がその存在を知ったのも偶然よ。昔の仲間が妙に入れ込んでたからね。実際に会ったことがあるのは、二人だけ……それほど希少な血筋」
くすり、と喉の奥で笑う音。大蛇丸様がゆっくりと振り返り視線が絡む。その瞳の奥にある〝興味〟がはっきりと分かった。
オロチマル「その一族の名は………」
わずかに間を置いて。
楽しむように、言葉を落とした。
