綱手捜索編
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記憶の奥から、懐かしい声が蘇る。
〝私、お兄ちゃんのこと大好き! 優しいし、物知りだし……お兄ちゃんみたいに強くなりたい〟
無邪気に笑いながら、そう言った幼い日の私。少し照れたように、けれど嬉しそうに細められた瞳。
〝名前なら、すぐ追いつけるよ〟
〝本当に!? やったー! 嬉しいな〟
弾む声。屈託なく笑い合っていたあの頃。
確かにそこには穏やかな時間があった。
〝……名前〟
私の名前を呼ぶ声だけが、やけに鮮明に耳へ残る。
ガバッ‼︎
『っ、は……っ、はぁ……っ』
息を詰まらせるように上半身を起こした。心臓がうるさいほど脈打っている。ぼやけた視界のまま辺りを見回すけれど、部屋には誰もいない。静かで、聞こえるのは自分の荒い呼吸音だけ。なのに、さっきまですぐそばに誰かがいた気がした。
胸の奥がざわついて落ち着かない。無意識に胸元を押さえた時、すぅ、と風が吹き込んできた。少し開いた窓、揺れるカーテン。その隙間から黒い羽がひらりと落ちる。
『……おにいちゃん』
そっと羽を拾い上げた瞬間、自然とその言葉が零れ落ちた。自分でも意味はわからないけれど、確かに何かを忘れている気がした。大切な何か、思い出さなければいけない何か。あと少しで届きそうなのに、指の隙間から零れ落ちていくみたいに掴めない。
その時――。
ジライヤ「おー。あいつの言う通り、しっかり成長しとるの」
『自来也さん』
ジライヤ「元気しとるか?お前に持ってきたもんがある」
『なんですかそれ……』
そう言って自来也さんが掲げたのは、どう見ても一人分では済まない量の食料だった。肉に魚、山盛りの白飯に汁物。机に並べられていくたび、思わず目が点になる。ざっと見積もっても十人前はある。
ジライヤ「これを食えばすぐ回復するぞ」
自信満々に言い切られ、半信半疑のまま箸をつけるけれど、さっきの言葉が引っかかる。
『あいつの言う通りって……どういう意味ですか?』
ジライヤ「ああ、そうだったな。お前さんにはまだ話して無かったか。お前、容姿変わっとるだろ? それは力を10%使えるようになった証拠だ」
『……ん?』
ジライヤ「お前の一族はな、十二歳で一度成長が止まるらしい。んで、力を扱えるようになった時点で、本来の年齢に合わせて体も成長していくんだと」
あまりにも自然に言われて、一瞬意味が理解できなかった。それが普通”みたいな口ぶりだったけれど、理解した途端、背筋がじわりと冷える。
『……十二歳で、止まる……?』
ジライヤ「らしいのー」
軽く返される。でも、私の中では全然軽い話じゃなかった。もし、自来也さんに出会わなかったら。もし、力を扱う方法を知らないままだったら。私はずっと、十二歳の姿のままだったのだろうか。そう考えた瞬間、ぞわりと鳥肌が立つ。
ジライヤ「それとな。カカシにも伝えたが、お前はこれからしばらく俺が面倒を見ることになった。詳しいことは旅の途中で話してやる」
『……旅?』
ジライヤ「ま、細けぇ話は後だ後。それ食って、一眠りしたら北の歓楽街に来い。そこでナルトと待っとる」
そう言うが早いか、自来也さんは「用がある」と手をひらひら振って、そのまま姿を消してしまった。
『ちょ、ちょっと……!』
呼び止める暇すらなかった。聞きたいことなんて山ほどあったのに。けれど、答えを求める相手はもういない。残されたのは大量の食料だけだった。
とりあえず食べるか、と自来也さんの言葉を半信半疑で信じ、黙々と食事を平らげる。すると、不思議なくらい体が軽くなっていった。食後、言われた通り三十分ほど眠る。目を覚ました頃には、さっきまでの気怠さが嘘みたいに消えていた。
自分の異常な回復力に少し引きつつも、手早く身支度を整えた。正面から出ればきっと誰かに止められる。面倒ごとは避けたい。そう判断して、開けた窓枠に足をかけ、そのまま外へ飛び出した。
風が頬を掠め、久しぶりの外の空気に少しだけ目を細めながら、門へ向かって屋根の上を走る。その途中だった。思わず足が止まる。
視界に飛び込んできたのは、崩れた建物の数々だった。積み上げられた瓦礫。土埃に汚れた道。慌ただしく駆け回る忍たちと、復旧作業に追われる里の人々。里の外で戦っていたせいで、ここまで酷い状態だとは思っていなかった。あの戦いが残した傷跡は、自分が思っていたよりずっと深かった。
そんな時だった。
びり、と空気が震える。肌が粟立ち思わず足を止めた。視線を向けた先、少し離れた場所に立っていたのは黒い羽織を纏った二人の男。黒地に赤い雲。
周囲を囲む木ノ葉の忍たちも、明らかに緊張していた。誰も迂闊に動けない。張り詰めた空気だけが、その場を支配している。そして、その中に。
『……カカシ先生』
銀色の髪が視界に入った瞬間、息が止まりそうになった。明らかに、カカシ先生のチャクラが乱れている。そう理解した途端、状況を考えるより先に体が動いていた。屋根を蹴り、一気に距離を詰めた。
