木の葉崩し編
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『私が行かなきゃいけないの』
その声は震えてもいなくて、ただ真っ直ぐだった。
サスケ「待てって‼︎ お前1人でどうにか──っ、おい!」
手を伸ばした瞬間には、もう遅かった。砂煙の向こうへ彼女の姿が掻き消える。指先が虚空を掴み、そこに残った温もりさえ消えていく。……また勝手に行きやがって。俺の言うことなんて、いつだって聞きやしない。化け物達の中へ、迷いなく飛び込むなんて正気じゃない。追いかけようとしたが、呪印が鋭く疼き、脚が地面に縫い付けられたように動かない。
サスケ「……クソッ……!」
悔しさと焦りで喉が焼ける。あいつはいつもそうだ。自分がどうなろうが構わずに、誰かを守るためなら平気で命を張る。…そんな簡単に、死ぬ覚悟なんか決めんなよ。
本当はただ――
俺の横で、また笑ってくれればそれでいいんだ。
けど、その言葉は喉に刺さったまま出てこない。身体は動かず、感情ばかりが暴れて、どうにもならない。届かないまま、俺はただ……あいつの背中が消えていった方向を見つめることしかできなかった。
______『サースケ』
サスケ「……んだよ。起きてるから、その手に持ってるもん使おうとすんな」
『やっぱ起きてる』と、彼女はがっかりしたように手元の“猫じゃらし”をくるくる回した。わざとらしく、ゆっくり。こちらの反応を確かめるみたいな間。使われる前に奪い取ってそのまま放り投げた。
サスケ「で、何の用だよ」
どうせ用件は一つだ。案の定、彼女はにやっと口角を上げ、何か企んでいる顔を向けてくる。人を面倒事に巻き込む時の、あの目。分かっているのに、視線を外せない。
――こういうところが、正直嫌いじゃない。
『修行しよ』
サスケ「いやだね。お前弱いし」
素っ気なく背を向けて目を閉じる。今日はどうにも気が乗らない。無視してやろうと思っていたのに──
スルッ。
サスケ「なっ、おい返せって」
『今日の修行は鬼ごっこ。私を捕まえたら返すよ』
サスケ「そんな話に乗るわけ──」
『……実戦じゃまだ勝てないけど……鬼ごっこでは、サスケ、まだ私に勝ったことないよね?しょうがない、返してあげよっかな』
完全な挑発だ。
間違いなく、俺を釣りにきてる。
サスケ「上等だよ。すぐ捕まえて泣かせてやる」
額当てを取り返そうと手を伸ばす。すると彼女はびくっと肩を揺らし、楽しそうに距離を取って笑った。
『まだ“スタート”って言ってないよ?時間は日が暮れるまでの2時間。最後に額当てを持ってた方の勝ち。じゃあ……10秒数えたら、スタートね』
サスケ「……ほんと勝手なやつだな」
文句を言いながらも、言われた通り10秒数える。
そして駆け出す。確かに、こいつの言う通りだ。俺はまだ一度も勝ったことがない。あいつを捕まえるのは簡単じゃねぇ。特に森に入られると、姿が消える。身のこなしなんて、ほんとに野生の猿そのものだ。
癪だが──俺はこいつを追うのが嫌いじゃない。
______________
スケ「ハァ、ハァ……たく、手こずらせやがって。もう逃げ場はねぇぞ」
滝壺の端。彼女の背後は断崖絶壁。ここから落ちればただじゃ済まない高さだ。
『ハァ…ハァ……写輪眼は反則だよ』
サスケ「使っちゃいけねぇなんてルールはねぇだろ」
『まあそうだけど……ふふ。写輪眼使わせるくらいには、成長したってことかな』
事実だった。森に入ってからは、写輪眼がなければ完全に見失っていた。動きは軽く、指一本触れられる距離まで詰めても、するりと身をかわされる。
サスケ「……そうだな」
思わず零れた本音。その瞬間、彼女はぱっと花が咲いたみたいに笑った。屈託がなくて、無防備で――そんな顔を向けられると、訂正する気すら失せる。
『あはは、嬉しいな。──はい、返さなきゃね』
夕日に照らされ、滝が金色にきらめいている。水音と光が重なり合う中で笑う彼女は、いつもと同じはずなのに、なぜか違って見えた。妙に、綺麗だ。
胸の奥がざわつく。理由は分からない。ただ、落ち着かないのに、目だけは離れなかった。額当てを受け取ろうと手を伸ばす。ほんの一瞬、指先が触れそうになる距離。気づけば、目を逸らすこともできなくなっていた…その瞬間。
『えっ』
サスケ「なっ⁉︎」
彼女の手から額当てが奪われ、鳥が滝壺の上空へ飛んでいった。状況判断は一瞬だ。今飛べば届く。だが落ちれば危険すぎる。だから俺の足は止まった。たった一歩──それなのに体が動かない。だが、名前は迷わなかった。危険なんて理解してるはずなのに、考えるより先に崖の先へ跳んでいた。
『──っと!』
鳥の動きを読み切り、額当てを奪い返すと、こちらへ向けて放り投げる。掴んだ瞬間、反射的に手を伸ばしたが、もう彼女には届かない。滝の上で、彼女は風を受けながら Vサインをして笑った。
『大丈夫〜!』
……ほんと無茶ばっかしやがって。
サスケ「なんでお前は、考えなしに行けんだよ‼︎」
怒鳴った声が、滝の轟音に吸い込まれる。額当てを結び直し、俺も迷いなく滝壺へ飛び込んだ。冷たい水が全身を叩く。肺が締め付けられるほどの衝撃なのに、胸の奥だけが熱い。水中で目を開く。彼女の姿が揺れながら近づいてきて、気づけば手を伸ばしていた。その瞬間になって、ようやく分かった。
――ああ、もうとっくに。
考える前から、選ぶ前から。追いかけずにはいられないところまで、来ていたんだ。
ザパッ‼︎
サスケ「……ハッ、ハッ……っ」
名前の腕を掴み、残っていた力をすべて使って岸へ引き上げる。水を吸った身体は想像以上に重く、指が滑りそうになるのを必死で堪えた。どうにか地面に横たえ、震える手で胸元に耳を寄せる。
──トクン……トクン……
心臓は動いている。その事実に、張りつめていた何かが一瞬だけ緩んだ。だが、胸は上下していない。息の気配が、どこにもない。
サスケ「……ふざけんなよ。ここまでして、死ぬとか……ありえねぇだろ」
焦りが喉に絡みつき、呼吸が浅くなる。人工呼吸の手順は覚えている。頭では分かっている。冷静にやればいい。それだけのはずなのに、顔を近づけようとした瞬間、指が止まった。
嫌がるんじゃないか。誰か“大切なやつ”のために、取っておきたいと思ってるんじゃないか。そんな考えが一瞬でも浮かんだことに、自分で驚く。俺が、何を気にする立場だ。なのに、胸の奥が妙にざわついて、思うように動けない。
……ほんとに、気づくのが遅ぇ。
サスケ「……後で文句でも、殴るでも、好きにしろ。今は……生きてろよ」
声が、わずかに震れる。そっと頬に触れると、冷たい。指先に伝わる体温が、今にも消えてしまいそうで、思わず力が入る。このまま放したら、二度と戻ってこない。そんなの、絶対に嫌だ。深く息を吸い、覚悟を決める。
サスケ「……っ、くそ」
迷いを振り切るように、顔を近づける。触れそうで触れない距離で、一瞬だけ目を閉じた。
戻ってこい。
頼むから――
