木の葉崩し編
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『私が行かなきゃいけないの』
その声は、ただ真っ直ぐだった。
サスケ「待てって‼︎お前一人でどうにか……っ、おい!」
手を伸ばすけれど、その瞬間にはもう遅い。砂煙の向こうへ、あいつの姿は消えていた。指先が空を掴み、残っていたはずの温もりさえ、あっさりと消えていく。
サスケ「……チッ」
舌打ちが漏れる。俺の言うことなんて、いつだって聞きやしない。化け物みたいな連中の中へ、迷いなく飛び込むなんて正気じゃない。追いかけようと踏み出した瞬間、呪印が鋭く疼く。焼けるような痛みが走り、脚が地面に縫い付けられたみたいに動かない。
サスケ「……クソッ……!」
悔しさと焦りで喉が焼ける。あいつはいつもそうだ。自分がどうなろうが構わず、誰かを守るためなら自分のことは後回しにする。ふざけんな、自分を大切にしろよ。俺はただ、お前が隣で笑ってくれればそれでいい。そこまで考えて、言葉は喉に引っかかったまま動かなくなる。そんなこと、口にできるはずもなくて、握りしめた拳に力だけがこもる。
視線の先にはもう誰もいない。ただ、あいつが消えていった方向だけが残っている。俺はただ、その背中が消えた先を見つめることしかできなかった。
________
俺がその違和感に気づいたのは、中忍選抜試験が始まる少し前のことだった。その日は特に任務もなく、午前の修行を終えて昼食を済ませたあと、俺は河原で横になっていた。
水の音を聞きながらぼんやりと目を閉じる。風も穏やかで、いつの間にか意識が落ちかけていたその時、足音が近づいてきた。
サスケ「……んだよ。起きてるから、その手に持ってるもん使おうとすんな」
目も開けずにそう言うと、『やっぱ起きてる』と、少し残念そうな声が返ってきた。視線を向ければ、手元で猫じゃらしをくるくる回している。
くだらねぇ。
使われる前にひったくって、そのまま放り投げる。
サスケ「で、何の用だよ」
どうせ用件は一つだ。案の定、彼女はにやっと口角を上げ、何か企んでいる顔を向けてくる。人を面倒事に巻き込む時の、あの顔。分かってる。ろくでもないことしか言わないのに、なぜか視線を逸らせない。面倒だと思うくせに、嫌いじゃない。むしろ、少しだけ楽しみにしてる自分がいる。
けど、素っ気なく背を向けて、そのまま目を閉じた。今日はどうにも気が乗らない。無視して終わらせるつもりだったのに。
スルッ。
サスケ「なっ、おい、返せって」
額当てが抜き取られる感触に、思わず目を開ける。
『今日の修行は鬼ごっこ。私を捕まえたら返すよ』
サスケ「そんな話に乗るわけ─…」
『……実戦じゃまだ勝てないけど……鬼ごっこでは、サスケ、まだ私に勝ったことないよね?しょうがない、返してあげよっかな』
その言葉にぴたりと動きが止まる。分かってる。完全に俺を釣りに来てる。挑発に乗るのは面倒だけど、このまま引くのはもっと癪に障る。
サスケ「上等だよ。すぐ捕まえて泣かせてやる」
額当てを取り返そうと手を伸ばす。すると彼女はびくっと肩を揺らし、楽しそうに距離を取って笑った。
『まだ“スタート”って言ってないよ?時間は日が暮れるまでの2時間。最後に額当てを持ってた方の勝ち。じゃあ……10秒数えたら、スタートね』
サスケ「……ほんと勝手なやつだな」
文句を言いながらも、結局は言われた通りに数え始める。律儀に従ってる時点で、もう乗せられてる。数え終わり、地面を蹴る。一気に距離を詰めながら気配を探る。
あいつの動きは読みにくい。特に森に入られたら厄介だ。音も気配も消して簡単に姿をくらます。身のこなしは、ほとんど野生の猿だ。ほんと、面倒なやつ。
サスケ「……逃げ切れると思うなよ」
口元がわずかに歪む。
俺は名前を追うのも嫌いじゃない。
