木の葉崩し編
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ピリッ
背後に肌を刺すような殺気が走る。
隠す気は、これっぽっちもないらしい。
『あなた、今からサスケとでしょ?私とあなたの試合は決勝だよ。そんな殺気立てて……何か用?』
振り返ると、ゆっくりと影が姿を現した。初めて会った時から変わらない、光を一切宿さない真っ黒な瞳。
我愛羅。
ガアラ「………」
『なっ――!?』
まさか、仕掛けてくるとは思っていなかった。反応が一瞬遅れ、逃げる間もなく体が壁へ叩きつけられる。砂が絡みつき、容赦なく身動きを奪う。気づけば私は、壁へ縫い付けられるように拘束されていた。完全に油断していた。
『っ……!用があるなら、口で言ってよ!』
我愛羅 は答えない。ただ無言のまま、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。静かな足取り。けれど、その一歩一歩には底の見えない闇が滲んでいた。
爆風を使えば逃げられるかもしれない。そう思い、ホルスターに入れた起爆札へそっと手を伸ばす。けれど、伸ばしかけた右手に砂が絡みつき、動きを完全に封じられた。その砂から、微かに血の匂いがした。
『……あなた、また人を殺したの』
ガアラ「ああ」
『っ…どうして!どうしてそんな簡単に人を殺せるの!? 人の命を……なんだと思ってるの!!』
ガアラ「俺が“生きている”証だ」
『証……?』
意味が理解できず、思わず聞き返す。
ガアラ「俺は6歳の頃から、これまでの6年間……実の父親に幾度となく暗殺されかけた。そこで考えた……俺はなんのために生きているのか、と。わからなかった。だが、こう結論づけた。“他者を殺すことで、自分が生きていると実感すればいい” と。俺は、生きている証として他者を殺す」
語調は淡々としているのに、言葉は凍りつくほど重かった。
ガアラ「……だが、お前の存在が俺を狂わせる。初めて見た時、苛立ちを覚えた。第二試験では……お前が飼っている化け物が俺を喜ばせた。その後は……妙に心が落ち着いた。それからだ。人を殺す時、必ずお前の顔がちらつく」
彼の黒い瞳が揺れる。
ガアラ「…………お前は一体、何者だ」
『あなた…まさか…カハッ⁉︎……く…るし……』
首元へ砂が食い込み、呼吸が一気に奪われる。息を吸おうとしても上手くできない。喉が締めつけられ、視界が揺れた。
ガアラ「お前は……何者だ……お前は……」
掠れた声で何度も同じ言葉を繰り返すその姿は、まるで助けを求めているようにも見えた。声をかけようとしたその瞬間、彼と視線が重なる。黒い瞳が真っ直ぐこちらを捉えていた。
冷たい。今まで見たどの時よりも温度のない目。ゾワッ、と背筋が粟立つ。ゆっくりとガアラの拳が握られ、それに呼応するように砂が締まり、全身が強く圧迫された。
『っ……』
逃げ出したくても体は動かない。試合で力を使った反動がまだ残っている。次にあの力を使えるまで、あと十五分。無理に引き出せば〝もう1人の私〟 が出てきてしまう。
ガアラ「……お前は……俺の、なんなんだ」
苦しげに呟きながら、彼の手が私の頬を掴む。指先に力がこもり、逃がさないように固定され、ゆっくりと、顔が近づいてくる。
『っ……!?』
息が止まりそうになる。距離が縮まるたび、張り詰めた空気が肌を刺した。
バチッ‼︎
ガアラ「⁉︎」
『ハァ…ハァ……ッ!』
全身を走る痛みに、思わず顔が歪む。左目尻に浮かんでいた黒斑がゆっくりと薄れていった。無理矢理引き出した力で砂の拘束をこじ開けたものの、その代償は大きい。立っているだけで精一杯だった。
体の芯がじんじんと痺れ、思うように力が入らない。それでも思考だけは止められない。逃げ道。攻撃の軌道。砂の性質。必死に頭を回しながら、視線を彼へ向ける。
彼は、さっきまで私を掴んでいた手を数秒じっと見つめていた。やがて、ゆっくりとその手を握りしめる。伏せられた横顔が、なぜか胸を締めつけるほど切なく見えた。
ガアラ「小賢しい。まだ力が残っていたか。だが、今ので最後の力のようだな」
『ハァ…ハァ…それは…どうかな』
ガアラ「強がるな。立っているだけで限界なのだろう」
『……そうだよ。限界だよ!』
気づけば声を張り上げていた。
一度溢れた感情は、もう止まらない。
『けど、私はあなたと話したいから、向き合ってるの!それなのに、さっきから……あなたは、自分勝手すぎる!聞きたいことがあるなら、黙って聞いたらどうなの!!』
痛みのせいなのか、極限まで追い詰められているせいなのか、自分でもわからない。けれど、どうしようもなく怒りが込み上げていた。我愛羅は私に用があるくせに。私が彼にとって何者なのか、知りたいくせに。なのに話そうとはしない、向き合おうとしない。その態度が、どうしようもなく腹立たしかった。
ガアラ「……今もそうだ……俺がお前に抱くこの感情が、なんなのかわからない」
『わからないなら、話して。あなたのこと。そしたら、私のこともちゃんと教えてあげる』
一瞬。ほんのわずかに空気が揺らいだ気がした。
けれど。
ガアラ「だから、もう考えるのはやめた。いつものように……俺の障害となるものは殺す」
空気が変わる。張り詰めた殺気が肌を刺した。どれだけ歩み寄ろうとしても、今の彼にはもう言葉が届かない。我愛羅が手を上げた瞬間、瓢箪から砂が零れ落ちる。音もなく、けれど凄まじい勢いで迫ってきた。反応はできるのに、体が動かない。逃げきれないと悟り、ギリギリで腕を交差し、防御の姿勢を取った、その時。
カカシ「……ほんとに手のかかる教え子だ」
低く、聞き慣れた声が落ちた。
