木の葉崩し編
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力が覚醒してから、私は自来也さんとひたすら組手をこなし、制御と出力を上げる修行に打ち込んでいた。けれど思うような上達は見られず、時間だけが過ぎていく。
この力を使えば、以前よりずっと強いのは確かだけれど、まだ不安定で確実に勝てる保証があるわけじゃない。不安が残るなか、試験当日になった。
ゲンマ「ブチギレる奴がいるから気をつけろってカカシさんに言われたからよ。どんな化け物かと思ったが……ずいぶん可愛らしいお嬢ちゃんじゃねぇか」
声に反応して顔を上げる。そこには針千本を咥えた試験官が立っていた。観察するような視線が、じっとこちらへ向けられている。
『カカシ先生、そんなこと言ってたんですか? ……まったく、帰ったらお仕置きですね』
軽く頬を膨らませると、相手は楽しそうに目を細めた。
ゲンマ「ハハッ。あの人にそんなこと言えるガキ、そうそういねぇぞ。面白いやつだな……まぁ、お前が暴走しねぇよう見ててくれって頼まれてる。安心しな」
にかっと白い歯を見せて笑う彼の整った顔立ちに、一瞬だけ目を奪われた。けれど、言っている内容は面白くない。
『だから……子供扱いしないでください』
ゲンマ「…………フッ」
一瞬、目を細めた次の瞬間。
ゲンマ「ハハハハ」
『?…ちょっ。や、やめ』
わしゃっと頭を掴まれ、大きな手が遠慮なく髪をかき混ぜ、視界が揺れた。抗議する暇もない。気づけば彼の顔が近づいていて、思わず息を呑む。目を細め、どこか楽しそうにこちらを覗き込んでいた。
ゲンマ「十年……いや、五年後か?お前、ある意味〝大物〟になりそうだな。……カカシさんも苦労すんぞ、こりゃ」
『なんの話ですか?』
ゲンマ「いや、なんでもねぇよ。ほら、来たぞ。対戦相手だ」
指差した先では、対戦相手のドスが首を傾け、不気味な笑みを浮かべながら会場へ入ってくる。第二試験でサクラたちは戦ったらしいが、決定的な弱点までは掴めなかったらしい。さらに、チョウジとの試合は一瞬で終わってしまい、情報もほとんどない。
長期戦は避けるべきだと思う。けれど、そう上手く運ぶかどうか。そんなことを考えていた時だった。
ドス「君には悪いですが、棄権してくれませんかね?次の試合のために力を温存したいんですよ」
予想外の言葉に、一瞬だけ思考が止まる。
舐められてる。
『サスケと戦いたいってことですね。私は眼中にない』
ドス「そういうことです。話が早くて助かります」
『誰も、棄権するなんて言ってませんけど』
ドス「いいんですね?」
『しつこいな。二回も言わせるつもり?』
ドスの口元がゆっくりと吊り上がる。挑発に乗せようとしているのが、見え透いていた。試験官の手が上がり、次の瞬間、私たちは同時に地を蹴った。
クラッ
『っ……!? グッ——っ!』
攻撃を避けた瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。耳鳴りが響き、平衡感覚が一気に崩れる。次の瞬間、その隙を逃さなかったドスの蹴りが腹部に叩き込まれた。
ドガッ‼︎
衝撃のまま壁へと弾き飛ばされる。背中を強く打ちつけ、息が詰まった。
『っ、は……』
立ち上がろうと膝に手をつくけれど、視界は定まらず焦点が合わない。胃の奥が激しく揺さぶられ、込み上げる吐き気に耐えきれず、その場で吐き出した。
サクラから聞いていた、〝音による攻撃〟。目に見えないのが厄介すぎる。どう対策するか、吐き気と腹部の痛みに耐えながら、必死に思考を巡らせた。
『……よいしょ……』
なんとか立ち上がるけれど、体は思うように言うことを聞かず、足元がわずかに揺れた。それを見たドスが、勝ち誇ったように薄く笑う。
ドス「もう一度言います。棄権したらどうです? 痛いのは嫌でしょう。あなたも気づいているはずです、私との実力差に。認めて降参するのも一つだ」
『……本当に、それ二度目。次言ったら許さないよ』
挑発なのか。それとも本気で言っているのか。ドスは口角をゆっくりと吊り上げると、躊躇なく三度目の言葉を吐いた。
ドス「棄権したらどうですか」
『忠告はした』
私は静かに息を吐き、意識を一点へ集中させる。内側に沈めていた力を引き出すように、ゆっくりと目を細めた。片目に黒い紋様が浮かび上がる。ほんの一瞬。
ドス「どこへ——……ッ?」
ドカッ!!!!!!
気づいた時には、私はすでに彼の背後へ回り込んでいた。振り抜いた拳が容赦なくドスの頬へ叩き込まれる。骨が軋む感触が拳越しに伝わった。そのまま彼の体は勢いよく吹き飛び、壁へ激突する。鈍い音を立てて崩れ落ちたドスは、もう起き上がらなかった。
『まだ手加減できないから使いたくなかったんだけど……無視した君が悪いんだから』
倒れた姿を見下ろし、小さく息を吐く。
『あと、私のこと舐めすぎ』
深呼吸をしながら、ゆっくりと力を収めていく。よし、上手く制御できてる。呼吸を整えながら視線を上げる。倒れたまま動かないドスを再度確認したゲンマは静かに手を高く掲げた。
試験終了。
何が起きたのか理解できなかったのか、会場は数秒の沈黙に包まれる。観客も、下忍たちも、上忍までもが目を見開いたまま固まっていた。けれど、勝者が決まったのだと理解した瞬間、歓声が爆発するように響き渡った。
「今の見たか!?」
「……消えたぞ!?」
ざわめきが一気に広がる。試合場を見下ろす上では、上忍たちの視線が一斉に私へ向けられていた。
驚愕に目を見開く者。鋭い眼差しで冷静に分析する者。興味を隠さず、闘志を滲ませる者。そして、獲物を見つけたように、不気味な視線を向ける者。
私はただ勝っただけ。そう思っていた。けれど、この時の私はまだ気づいていなかった。この一戦で、〝勝敗〟以上の何かを見せてしまったことに。
そして、多くの忍が〝私〟という存在を知ることになる。
