中忍選抜試験編 後編
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『ゼェ……ゼェ……』
この子、強い。
頬を伝う血を袖で拭いながら、目の前の敵を睨み据える。自来也先生の術で、私はどこか閉ざされた空間へ飛ばされていた。辺りは一面、果てしなく続く白。そして今、目の前にいる人型の傀儡のような存在と死ぬ気で戦っていた。
けれど、すぐに気づいた。これはただの人形じゃない。動きの癖。間合いの取り方。攻撃へ移るタイミング。すべてが私自身のものだった。そう。この人形は私の分身。違うのは、たったひとつ。私には体力の限界があるけれど、相手にはそれがない。
「影分身の術……火遁・蒼火球の術」
『っ……!』
青白い炎が生まれた瞬間、周囲の空気が焼ける匂いへと変わった。威力が尋常じゃない。影分身はチャクラを分ける術。つまり、二人分の力で忍術を放てるということだ。こんなふうに使うこともできるのか、ここで初めて理解した。
もしあれを一人で使えば、私は術を放った瞬間に口元ごと焼け落ちる。体術も忍術も、すべてが私の上位互換。話しかけても反応はない。倒す以外の選択肢なんて、最初から存在しなかった。負けたらどうなるのかも分からない。
説明不足すぎるよ、自来也さん。
『でも、こんなところで終わってられないんだ』
技術で劣っていても基礎が同じなら、ここで今の私を超えればいい。深く息を吸い、構えを整える。逃げるわけにはいかない。私は、みんなを守れるくらい強くなりたい。その一心で、目の前に立つもう1人の自分を真っ直ぐ睨みつけた。
________________
バチッ‼︎
ジライヤ「ぬおっ⁉︎……どうやら上手くいったみたいだのー」
『これが……』
体の奥底から、じわじわと力が湧き上がる。熱いようで、冷たいようで、今まで感じたことのないチャクラが、ゆっくりと全身を巡っていた。それは確かに、私のものとは違う〝別の気配〟を宿している。
ジライヤ「ククク、驚くにはちと早いのー。それはまだ、ほんのわずかな力にすぎん。お前さんは、これを引き出して、使いこなせるようにならんと…」
ボカッ‼︎
ジライヤ「ぶほっ⁉︎…いっ……いたたたた……!?」
『あ、いや、ちょっと……つい……』
説明もなしに、生死に関わる修行へ放り込まれた反動だった。気づけば反射的に拳が出ていた。
ジライヤ「つい、で人を殴るやつがあるかっ……!」
『だって、死ぬかと思ったんですけど……』
ジライヤ「たく……あの可愛らしいお前はどこへやら……どんどん、あいつに似てきて悲しくなるわい」
『……誰のこと言ってるんですか?』
ジライヤ「ええい!なんでもないっての。ほれ、本題に戻るぞ。本題にな。力を手にしたということは、つまりお前、もう一人の自分としっかり向き合ってきたってことだな?」
『……多分?』
ジライヤ「多分じゃと⁉︎」
『だ、だって……抜け殻みたいな人形と戦っただけだし……とりあえず倒したら、ここに戻ってきたって感じで……』
ジライヤ「倒した……と?」
自来也さんの動きが一瞬止まり、次の瞬間。
ジライヤ「クク……ククク……クハハハハ‼︎あのじゃじゃ馬を倒したか!良い!良いぞ!強くなる、強くなるぞー!!」
上機嫌のまま、親戚のおじさんみたいに肩をバシバシ叩いてくる。払いのけようと手を上げた瞬間だった。どくん、と全身から力が抜け膝が崩れ落ち、その場にぺたんと座り込む。
『……っ、力が……入らない……』
そして。
グーーーーーー。
静まり返った空間に、盛大な腹の音が響いた。
『…………』
ジライヤ「わっははは!腹の虫が鳴いとるのー。よし、まずは腹ごしらえじゃ。修行はそれからだな」
豪快な笑い声が響く。悔しいのに、どこか安心してしまう自分がいた。それから私たちは街へ降り、腹の虫を黙らせるために食堂へ入った。
普段はあまり食べない私でも、今日はどれだけ口に運んでも満たされない。気づけば、大人三人前の量を平らげ中。それでもまだ足りない。どうやら、あの力は相当なエネルギーを消耗するらしい。
ジライヤ「あいつも大男並みの食欲を見せておったが……これが理由だったとはの。まさか、こんな〝弱点〟があったとは、わしも知らなかった。あいつは最強で、弱みなんぞ一度も見せんやつじゃったからのー」
『自来也さんは、どうしてあの力のこと知っていたんですか?その女性が関係してるんですか? みんな知らなかったのに』
ジライヤ「ふむ……どこから話すべきかの……」
懐かしむように目を細め、自来也さんはゆっくりと息を吐いた。その横顔は、どこか遠い昔を見ているようだった。やがて静かに語り始める。
昔、ともに戦っていたある〝女性〟のこと。その女性の一族のこと。そして、一族だけに受け継がれる特別な〝力〟について。
ジライヤ「……まぁ、話せるのはこれが限界だな。謎の多い一族じゃったし、あいつも全部を教えてくれたわけじゃない。今話したのは、わしが直接聞いたことと、旅の途中で調べた分だ。今も探しとる最中よ。何かわかれば、お前さんにも伝える」
『ありがとうございます』
ちょうど三人前を平らげた頃、話は一区切りついた。まだ食べられそうだったけれど、奢ってもらっている身だ。追加注文へ伸びかけた手を、そっと引っ込める。
ジライヤ「さて、腹の虫も鳴き止んだことじゃし……ナルトの様子を見に行くかの」
会計を済ませ、自来也さんが立ち上がる。その背中を見ながら、ふと引っかかっていたことを思い出した。
『そういえば……私の術、名前なんですか?』
ジライヤ「……あー」
一瞬だけ目を逸らし、なぜか渋い顔になる。口元をもごもごと動かし、咳払いをひとつ。やがて、覚悟を決めたような顔で口を開いた。
その名を聞いた瞬間、思わず眉をひそめる。
『……ダサい』
一拍置いて、自来也さんの顔が引きつった。
