飛段•角都章
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『……っ……せ、んせ……』
カカシ「……カカシでいい」
『カカ……シ……』
熱を帯びた瞳がまっすぐ俺を映す。妙に素直で無防備で、その呼び方を聞いただけで心臓の奥がざわついた。
「『カカシ』」
不意に誰かの声が重なる。
アスマ「おーい、おーいって聞いてるか?カカシ」
視界に入ったのは、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべたアスマの顔だった。最悪だと、直感が言う。
カカシ「……なんだよ」
アスマ「なに、教え子のケツ追っかけてんだよ」
カカシ「は?」
そう言いながら、アスマが顎で前方を示した。視線を向けるその先では、イノと名前が数人の男に囲まれていた。どうやらナンパされているらしい。名前は困ったように笑っていて、イノは若干面白がっている。
アスマ「さっきからずーっと見てんじゃねぇか」
カカシ「……別に追っかけてないから」
即座に否定し、そう言いながら俺はさりげなく視線を逸らした。あの日以来、名前とは妙に気まずい空気が流れている。以前みたいに軽く流せないというか、変に意識してしまうというか。原因なんて考えるまでもなかった。
アスマ「それはそうとして……お前、妙に不機嫌だな。あ、もしかして……嫉妬してんのか?」
カカシ「は?あのね、そんなわけないでしょ。お前、俺と何年の付き合いよ。俺のタイプも好みも知ってるでしょ」
アスマ「お前にタイプも好みもねぇだろ」
即答だった。
アスマ「だれにでもフラフラしてるくせによ」
カカシ「……さすが」
図星すぎて反論できず、乾いた笑いしか出なかった。するとアスマは面白いものを見つけたみたいに口角を上げる。
アスマ「そんなお前がさ、最近どの女の誘いにも乗らなくなった。前の砂隠れの里の要請任務の後からだ。……なんかあったろ」
こうゆう時に限って勘のいい男だ。ありましたよ、しかも最悪な形で、最近だけれど。なんて口が裂けても言えない。教え子相手に何やってんだって話だ。笑えないにも程がある。
アスマ「へぇ〜。その顔、絶対なんかあるな」
カカシ「……うるさいな」
これ以上突っ込まれる前に話題を逸らそうと、必死に頭を回転させ、ふと気づいた。
カカシ「……お前、タバコやめたの?」
アスマ「あ? ……話逸らし方、雑すぎんだろ」
ダメか。小さくため息をつく。さて、次はどう誤魔化したものか。そう考えながら何気なく視線を動かした、その時だった。名前の肩を知らない男が馴れ馴れしく組んでいるのが見えた。
カカシ「……」
ぴくり、と無意識に人差し指が動く。サイの時も思ったけど、名前は人との距離感が近すぎる。というか警戒心がなさすぎるだろ。男相手にあんな簡単に懐に入らせるとか、見てるこっちが落ち着かない。
アスマ「おーい、だから俺の話聞いてんのかって」
呆れた声が飛んでくる。
カカシ「あー……聞いてる聞いてる」
適当に返しながらも、視線は完全に向こうへ向いたままだった。すると、ふわりと柔らかな声が横から落ちてくる。
「カカシさん、お久しぶりです」
カカシ「……ああ、久しぶり」
反射的に返したものの、誰だっけ。危うく口に出しかけて慌てて飲み込む。さりげなくアスマへ視線を向けると、案の定「またか」と言いたげな顔をされた。
アスマ「久しぶりだな。イノたちの中忍試験の時、世話になったな」
その言葉でようやく記憶が繋がる。
カカシ「…うちのサクラが世話になったね」
思い出した。ナルトと名前が修行へ出ていた頃、サクラが受けた中忍試験。その試験官をやっていた、くのいちだ。確か、あの時も向こうから声をかけてきた。それだけじゃない。試験後、その流れで食事に行って、そのまま彼女の家に上がったんだった。
「いえ、さすがお二人の教え子でしたよ。もう、中忍試験を受けた子たちの中でも飛び抜けてましたね」
カカシ「そんな事ないよ。ところで俺たちになんかようだったの?」
わざわざ声をかけてきたんだ。何か理由があるんだろうと思って尋ねると、彼女は少しだけ視線を泳がせたあと、意を決したように口を開いた。
「あ、えっと……カカシさん、今晩空いてますか?」
カカシ「……」
なるほど、特に理由はなかったらしい。しかもアスマが隣にいる状況でちゃんと誘ってくる辺り、なかなか肝が据わってる。正直、そんな気分じゃない時のお誘いはめんどくさい。以前の俺なら適当に流れに乗っていたかもしれないけれど、脳裏に浮かぶのはさっきの光景だった。男に肩を組まれて困ったように笑っていた彼女の姿。その瞬間、胸の奥に生まれた妙な苛立ち。
カカシ「……」
なんなんだろうね。ほんと自分でもよく分からない。なのに、気づけば口が勝手に動いていた。
