風影奪還の章
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『えっ』
反射的に飛び退こうとした瞬間、身体がぴたりと止まる。捕まれた、そう理解するよりも早く、背後に静かな気配が立った。低く落ち着いた声がすぐ耳元で響く。
ガアラ「……名前を少し借りるぞ」
ナルト「我愛羅‼︎」
有無を言わせないその一言の直後、視界がぐらりと揺れ、身体がふわりと宙へ浮かんだ。
『ちょ、ちょっと――!』
抗議の声を上げる間もなく、砂が優しく身体を包み込み、そのまま夜空へと運んでいく。祭りの喧騒はみるみる遠ざかり、賑やかな笑い声も太鼓の音も小さくなっていった。やがて足元に硬い地面の感触が戻り、砂がさらさらとほどけ、地面に還っていく。
『……』
顔を上げると、そこは砂隠れの里を一望できる高台だった。無数の灯りが夜の闇に瞬き、祭りの明かりが里を彩っている。さっきまであの賑わいの中にいたはずなのに、まるで別世界だった。
『うわぁ……すごく綺麗』
思わず一歩前へ踏み出すと、頬を撫でる夜風にフードがふわりと揺れ、思わず目を細めた。隣では、我愛羅が静かに里を見下ろしている。何も言わず、それでもどこか穏やかな表情に見えた。
ガアラ「ここは、俺のお気に入りの場所だ。お前に、ずっと見せたかった」
『素敵な里だね……我愛羅。あの、近いんだけど』
ガアラ「何か問題があるのか」
『うん……問題しかないと思う』
思わず見惚れていると、隣へ我愛羅が静かに並んだ。その距離は思っていたよりもずっと近い。夜風よりもはっきりと伝わってくる彼の体温に、胸が落ち着かない。こんなところを誰かに見られたら、また里中の噂になる。ただでさえ危うい立場なのに、これ以上誤解されたら本当に寿命が縮みそうだ。気づかれないように、そっと半歩だけ距離を取ろうと足を動かしたその瞬間、足元の砂がざわりと音を立てた。
『……っ、拘束系やめて!』
ガアラ「逃げようとするからだ」
さらりと返される。足首へ絡みつく砂に痛みはないけれど、「離すつもりはない」という意思だけは十分すぎるほど伝わってきた。我愛羅は視線を里へ向けたまま動かない。その無言の圧に負け、私は小さく息をついて観念したように彼の隣へ並び、二人で同じ景色を見つめる。しばらく、二人の間を静かな沈黙が流れた。遠くの祭囃子だけがかすかに響く中、やがてその静寂を破るように我愛羅がゆっくりと口を開く。
ガアラ「……三年前、ナルトとお前の言葉に、俺は救われた。だから今、風影としてこの里を任される立場にいる。………だが…本当に俺は、誰かに必要とされる存在になれただろうか」
風影として里を率いる彼とは思えないほど、その横顔はどこか不安げで、頼りなく見えた。私は迷うことなく口を開く。
『大丈夫。もう、なってるよ。誰かに必要とされるって、完璧だからじゃないと思う。誰かを大切にしたいって気持ちがあって、そのために必死にできることを積み重ねていく。その姿を見て、みんなが認めてくれるんじゃないかな』
ガアラ「……そういうものなのか」
『きっとね。……私も偉そうなことは言えないけど、自信持ちなよ。今の我愛羅、本当にかっこいいよ』
その瞬間、彼の瞳がわずかに見開かれた。やがて我愛羅はゆっくりと目を閉じ、小さく息をつく。そして再び目を開いた時、その表情には穏やかな笑みが浮かんでいた。それは風影として人前に見せる笑顔ではく、一人の青年として見せる、優しい微笑み。
ガアラ「お前は、俺が風影になっても変わらないな」
『当たり前っ……って、ちょ、待っ――!?』
次の瞬間、ふっと距離が消えた。さっきまで隣に立っていたはずなのに、気づけば彼は目の前にいる。
『えっ…』
思わず息を呑む。
ガアラ「なんだ」
不思議そうに首を傾げながら、我愛羅はこちらへ向き直る。逃げる間もなく、温かな手がそっと私の頬へ触れた。指先は驚くほど優しいけれど、その手には少しの迷いもなかった。ゆっくりと、彼の顔が近づいてくる。
『な、なんで、こうなるの……!』
反射的に彼の口元へ手を添えて制止する。触れた掌から伝わる体温がやけに熱く感じた。
ガアラ「……お前の笑顔が、綺麗だった」
真っ直ぐな眼差しのまま、彼はゆっくりと距離を縮める。思わず一歩後ずさると、足元の砂がざわりと音を立てた。逃がさないと言うように、砂が優しく足首へ絡みつく。
『もう……っ』
頬に添えられていた手が、そっと顎へ移る。無理やりではないけれど、それでも逃げられないほど近い距離に、心臓の鼓動が耳の奥で大きく響いた。
ガアラ「……名前。嫌なら言え」
低く、静かな声だった。彼は触れそうなほど近い距離で動きを止め、私の返事を待つ。無理強いはしない。それでも、その真っ直ぐな瞳には決して揺るがない想いが宿っていた。風影ではなく、一人の男として私だけを見つめる眼差しに、息が詰まる。
『私は……』
言葉を紡ごうとした、その時だった。
カカシ「……そこまでだよ、風影様」
背後から、どこか気の抜けた、それでいて妙に鋭い声が静かに割って入った。
