中忍選抜試験編 後編
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ジライヤ「ほれ、もう一本。……動きは悪くないのう。……じゃが、最後で集中が切れる」
実際、悪くない。この年でここまで術を自分のものにしている忍は、今の時代そう多くはおらん。
ジライヤ「ちと休憩だ。無理にやっても意味はない」
『ハァ…ハァ…はい』
荒い呼吸を整えようとする名前を横目に腕を組む。その動きを眺めながら、ふと昔の記憶がよぎり、違和感がじわりと胸に広がった。
ジライヤ「……しかし、あれだけ忍術は教えんと過保護にしておきながら、影で修行させとったとはな。で、あいつからは何を学んだ?」
『……おじさんからは忍術も体術も教えてもらってません。全部、ここで覚えました』
ジライヤ「……なに? 基礎すら、か?」
『はい』
迷いのない返答にわずかに目を細める。あの動き、あの精度。短期間でここまで自分のものにしたという事実が、名前の資質の高さを物語っていた。才能だけでは辿り着けない領域だ。同時に、その力を縛り、伸びを止めている原因も、おぼろげながら見えてきた。
ジライヤ「……動きが鈍るのは、何かに囁かれて、意識を乗っ取られるような感覚になるからじゃろ?」
『なんでそれを……!』
はっとしたように顔を上げる。その反応で確信に変わった。やはりな。内心で小さく息をつく。「俺がしっかりと育てる」と啖呵を切っておきながら、肝心なところは何も教えとらん。まったく、あの過保護野郎。
ジライヤ「よし、分かった。まずはその〝声〟をどうにかせんとな。こっちへ来い。わしの前に座れ」
『え、あの、もう少し詳しく……』
ジライヤ「いいから。説明は、お前自身に聞けばいい」
言葉の意味を測りかねている様子だったが、それでも名前は素直に従い、わしの前に正座する。あの女の言う〝一族のやり方〟とは違うが、わしの我流でも十分じゃろう。
『これで、何をするんですか?』
ジライヤ「お前の意識を、お前自身の精神世界に飛ばす術だ。しっかり話し合ってこい。覚悟しろ。お前の中のお前は、気性が荒いぞ」
『えっ……ま、まって……!』
指先にチャクラを集め、額へと軽く触れる。その瞬間、名前の身体から、ふっと力が抜け、糸が切れたようにその場に崩れ落ちる。倒れ込む身体を受け止め、木陰へ運ぼうと手を伸ばした、その刹那。
ドガッ‼︎
ジライヤ「……出てきおったか」
衝撃に弾き飛ばされ、足を踏みしめて踏みとどまる。やはり、構えておいて正解だった。思ってた以上に潜在能力が高すぎる。精神世界へ送り込まれる前に、〝もう一人の自分〟が器を奪い、外へ出てきたか。
『フフ……んー! 久しぶりの外の世界。やっぱ最高。ありがと、おじさん』
真紅の瞳。先ほどまでの穏やかな青とはまるで別人のそれ。口元に浮かぶ笑みも、声の調子もすべてが異質だった。
ジライヤ「会話ができるとは……強いのう。ちと話を聞いてくれんか?」
『当たり前でしょ? 純血だもん。混合種と一緒にしないで』
軽やかに身体を回し、側転やバク宙で感覚を確かめている。遊んでいるようで隙はない。この余裕こそが厄介だった。いつ来てもいいように、気配を殺して構えを崩さない。
ジライヤ「純血か……そりゃ大したもんじゃ。なら単刀直入に言おう。そろそろ名前に力を使わせてやれんか?」
『…………はぁ?』
ぴしり、と空気が凍りつく。
ジライヤ「名前が成長すりゃ、お前も成長する」
『確かにね。でも、精神まで成長されたら困るの。そうなったら私が出られなくなる。せっかく手に入れた体だよ? 簡単に貸すわけないでしょ』
ジライヤ「じゃが、お前自身では成長できんじゃろ」
『……っ!…おじさん、よく知ってるね。私の一族のこと。なかなか珍しいはずなんだけど……何者?』
ジライヤ「ただの旅の仙人さ」
『ふーん……まあいいや。どうせ、もう会わないし』
ジライヤ「……それは、どういう意味じゃ?」
『決まってるでしょ——‼︎』
地を蹴る音。弾けるように間合いが詰まる。迫る笑みは、かつての知り合いと同じだった。だが、戦いはそう長くは続かなかった。
ジライヤ「うむうむ。動きも悪くないし、忍術の応用も見事じゃな。誰にも教えられておらんのに、ここまで自分のものにできるとは……さすが、一族の血を濃く受け継いどる」
『うるさい! 離せ! お前、一体……!』
ジライヤ「さっきも言ったじゃろ。ただの仙人じゃよ。昔は〝木ノ葉の三忍〟なんぞと呼ばれたがな」
『そんなの、ずるい!』
わしの尻の下で押さえ込まれたまま、じたばたと暴れ、声を張り上げる。その必死な抵抗に、思わず口元が緩んだ。力の質は恐ろしい。放たれる殺気も紛れもなく本物だ。それでも、その振る舞いにはどこか幼さが残っている。
ジライヤ「さて、本題じゃ。さっき言ったように、力を使わせてやってくれ」
『絶対イヤ! なんで私が、自分の不利になることしなきゃいけないのよ!』
ジライヤ「良い案だと思うがのー。ほれ、お前さんもまだ、わしには勝てん未熟者……」
『うるさいって言ってるでしょ‼』
ジライヤ「話は最後まで聞け。……そういうところも、あいつにそっくりじゃの」
『何を言われたって貸してあげないんだから!』
噛み合わん。こちらが言葉を重ねるほど、意地になって拒絶してくる。話を聞かんところまで、そっくりだ。血の濃さ、というやつかもしれん。このまま押し問答を続けても意味はない。ならば、少し方向を変えるしかない。
ジライヤ「忠告だが…お前を狙う組織が動き出しそうだ」
その瞬間だった。暴れていた身体が、ぴたりと止まり、真紅の瞳がわずかに揺れる。先ほどまでの反抗的な熱がほんの少しだけ引いた。
ジライヤ「恐ろしい奴らじゃ。未熟なままじゃ、お前でも喰われるぞ」
『…………』
返事はない。だが、沈黙の意味は十分すぎるほど伝わった。わずかに伏せられた視線の奥で、何かを測るように思考が動いているのが分かった。
