飛段•角都章
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カカシ「……思い出した」
ぽつりと漏れた声。誘ってきたのは名前だった。だが、それを受け入れたのは自分だ。越えてはいけない一線だと分かっていたはずなのに、額に手を当て深く息を吐く。忘れようとするほど昨夜の記憶は鮮明だった。触れた温もりも、甘く掠れた声、縋るように絡んできた腕、吸い付くような肌の熱も、頭から離れてくれない。
カカシ「本当、勘弁してくれよ……良すぎでしょ」
否定しようにも体が覚えている。昨夜を後悔だけで片づけることができない自分がいて。その事実が何より厄介だった。もしかしたら、止める機会なんて本当は最初の口づけを受け入れた瞬間に、もう失っていたのかもしれない。
カカシ「参ったな…」
そう呟きながらもどこか苦笑が混じる。罪悪感とそれを上回る余韻。その両方を抱えたままもう一度だけ視線を落とすと、視線が噛み合った。
『………』
カカシ「………」
言葉が出ないまま、静かな時間だけが流れていく。ゆっくりと上半身を起こす彼女の体が窓から差し込む光に照らされ、白い肌がやけに眩しい。無意識に喉が鳴った。改めて見ても綺麗だと思う。そして同時に目に入る、自分が残した痕。赤く、いくつも刻まれたそれが、昨晩を嫌でも思い出させた。
カカシ「……っ」
ほんの僅かに視線を逸らす。何を言うべきか、分からない。迷っている間に彼女は自分の体と俺を交互に見た。そして理解したのだろう、みるみるうちに血の気が引いていく。その反応が少しだけ面白い、なんて思ってしまった自分に内心で苦笑する。
『……す、すみませんでした』
カカシ「いや……俺も悪かった」
短く返す。それ以上、言葉は続かなかった。気まずい沈黙の中、俺は脱ぎ捨てられた服へ手を伸ばし布団から抜け出す。このまま帰るべきか、そんなことを考えていると、背後から予想外の声が飛んできた。
カカシ「……相変わらず、美味そうな匂いだな」
視線を向けると、机の上には朝食が並んでいた。立ち上る味噌汁の湯気と懐かしい香りに、張り詰めていた意識がふっと緩む。まさか、ここで朝食を誘われるなんて思ってもいなかった。席につき、箸を手に取る。お互い昨晩のことには触れないように、話題はいつの間にか修行のことへ移っていった。
カカシ「ナルトの修行法は考えついたが……お前はどうする。もし特別なことがないならヤマトの補助についてくれると助かるんだけど」
ナルトのチャクラ量は想像以上だった。九尾化を抑えるテンゾウは、いつ音を上げてもおかしくない状態。イザナミがこんな修行に顔を出すとは思えないが、名前の力だけで九尾の影響を抑えられるようになれば、彼女自身の成長にも繋がるだろう。まあ、少し賭けではあるが。
『わかりました。特に支障もないのでできますよ。私もやりたいことがあるので、フォロー以外の時は勝手に修行してますね』
カカシ「それは助かるよ。あいつ、日に日にやつれてってるから」
『ただでさえクマがすごいのに……先生、ヤマト隊長への対応雑すぎません?』
カカシ「昔からの仲だから良いのよ」
『ヤマト隊長かわいそう』
カカシ「………」
真面目な話をしていても、どうにも落ち着かなかった。会話が止まれば余計目に着く。視線は何度も彼女の首元へ向かう。そこに残る、昨日俺が付けた赤い痕が目に入るたび、胸の奥がざわついた。
『どうしたんですか?』
俺の視線に気づいたのか、名前が不思議そうに首を傾げる。本当のことを言うべきか、一瞬だけ迷った。だが、首につけてしまったものは隠そうとしなければ隠しきれない。本人はまだ気づいていないようだが、だからといって黙っているわけにもいかない。後になって知られた時の方が、間違いなく面倒だろう。
カカシ「あー、本当に悪かった、その……」
どう切り出そうか迷い、遠回しに伝えてみたものの、彼女にはまったく伝わらなかった。仕方なく自分の首を指差し鏡を見るよう促す。不思議そうにしながらも従った名前は、鏡へ顔を向けた直後、ぴたりと動きを止めた。
『……え』
次の瞬間、慌てたように胸元を覗き込み、襟を引っ張る。
『ちょっと! カカシ先生、つけすぎですよ!!』
カカシ「いや、その……うん」
『うん、じゃないです!』
勢いよく振り返った名前の頬は真っ赤だった。しばらく恨めしそうにこちらを睨んでいたが、やがて大きくため息をつく。それは、本気で怒っていると言うより、困り果てている様子の方が近い。そんな彼女を見ていると申し訳なさと同時に、少しだけ安堵した。少なくとも、口を利いてもらえなくなるほど怒っているわけではなさそうだったから。
