飛段•角都章
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カカシ「おーい、おーい。家、着いたぞ」
『んー……帰る……』
カカシ「だから、着いたんだってば」
苦笑しながら返すが、その後の反応はない。完全に潰れている。やれやれ、と小さく息を吐き、彼女の腕を自分の首に回す。倒れないよう腰を支えると、ぐったりとした身体はほとんど力が入っていなかった。これは、ほぼ全部こっちで支えてるな。
カカシ「連れて帰ってやるとは言ったけど……まさか本当に潰れるまで飲むとはね」
誰に聞かせるでもなく呟きながら、借りていた合鍵で扉を開ける。部屋に入ると、静かな空気が広がった。彼女が帰還してから初めて足を踏み入れた部屋は、昔とほとんど変わっていない。けれど、棚の端に置かれた小物や見慣れない布、旅先で手に入れたのだろう飾りが、彼女が過ごした空白の三年を静かに物語っていた。
その光景に一瞬だけ目を留めながら、彼女をソファへ横たえる。規則正しい寝息。無防備な寝顔。崩れた服から太ももがちらりと覗き、一瞬だけ視線が止まる。だが、すぐに目を逸らした。
カカシ「……水くらい、飲ませとくか」
グラスに水を注ぐ。コップ越しに揺れる水面を見つめてから、彼女の上体を軽く起こした。
カカシ「名前。ほら、少し飲みな」
飲めるかは分からない。それでも、このまま放っておくわけにもいかなかった。しかし、差し出したグラスに伸びてきた手は、それを取ることなく、するりと俺の頬に触れた。
『…………』
無言で見上げてくる瞳。酒に濡れて焦点もどこか曖昧なはずなのに、そこに宿る熱だけは妙に鮮明だった。じっと、逸らさずにこちらを見てくる。その視線に絡め取られるように思考が一瞬止まり、喉が鳴った。
カカシ「……飲み過ぎだな。ベッドに運ぶぞ」
わざとらしく視線を外し、淡々とした声を作る。崩れかけた理性をどうにか引き戻すように、そのまま彼女を抱き起こそうと身を寄せたその時、額当てに指がかかる。
カカシ「……おい」
止める間もなくゆっくりと引き抜かれ、露わになる写輪眼。それが、彼女の瞳に映り込んだ。揺れる赤と黒。絡み合うように視線がぶつかった次の瞬間、ぐっと距離が縮まる。触れたのは一瞬、けれどはっきりと分かる柔らかさ。
カカシ「……」
何が起きたのか理解が遅れる。ほんの僅かに開いたままの距離は息がかかるほど近い。今のが彼女からのものだと認識するまでに、数秒を要した。思考が真っ白になる。
カカシ「…おっと……これはまずいな…」
酔っていてもさすが忍だ。一瞬の隙を突かれ、ソファーに押し倒される。視界の上の名前は少し挑戦的な目で見下ろしてくる。教え子で、一線を越えてはいけない相手だと頭では理解しているのに、任務や入院で妙に空いた時間のせいだろうか。触れられるだけで無視できないほど反応してしまう自分がいる。
言葉もほとんど届いていない。完全に酔っている。どうしたものかと考えたその時、不意に腹へひやりとした感触が走る。
カカシ「……っ」
視線を落とせば、彼女の指が俺の腹筋をなぞっていた。確信的な動きで、無意識なのかそれとも。どちらにしても質が悪い。完全に誘われている。
カカシ「……こら、やめなさい」
反射的にその手首を掴み、動きを止める。見下してくる彼女は、不服そうにわずかに眉を寄せ、小さく身をよじった。逃れようとするその仕草すら、妙に艶めいて見えてしまう。三年前とは違う大人びた顔、熱を帯びた瞳、そして女性としてしっかりと成長した身体。正直。
カカシ「……勘弁してくれ」
再び距離が詰まる。己の理性との戦いに夢中で、掴んでいた手はするりと解かれ、口布を下げられた次の瞬間、直接触れる柔らかな感触。
カカシ「……っ」
甘さが、触れるたびにじわじわと広がっていく。ただそれだけで、十分すぎるほど理性を削る。まずい、そう思った時にはもう遅かった。唇をなぞるかすかな湿り気。それが引き金のように、俺の中で何かが切れる。次の瞬間には体勢が入れ替わっていた。
カカシ「……はぁ……」
荒くなりかけた呼吸を無理やり押し殺す。今度は俺が見下ろす側。ソファーに沈む彼女のわずかに潤んだ瞳がこちらを映している。その顔を見た瞬間。
カカシ「……ほんと、勘弁してくれよ」
理性はまだあった。この時までは確かに。
すぐに彼女の腕が首へと回る。逃がさないとでも言うように引き寄せられ、三度目の口付け。気づいた時には、彼女の後頭部を支えていた。逃げ場を塞ぐように深く。さっきまで守ろうとしていたはずの距離が簡単に崩れていく。
息が絡み、触れるたびにじわじわと熱が広がっていく。止めるべきだと分かっているのに離せない。もう片方の手が、無意識に彼女の服へとかかる。
カカシ「……は……」
浅くなる呼吸。指先に伝わる体温がさらに理性を鈍らせる。離せない。もう理性なんて残っていなかった。
