飛段•角都章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
チュン、チュン。
窓の外から聞こえてくる鳥の囀りが、やけに耳に残った。一度、天を仰ぎ深く息を吐いてから、恐る恐る斜め下へゆっくりと視線を落とした。そこにあったのは、昨晩の俺がつけたであろう痕をうなじに残したまま、無防備に眠る名前の姿だった。規則正しい寝息に穏やかな表情。何もなかったかのように、静かに眠っている。
カカシ「……どうしてこうなった」
思わず声が漏れた。頭を抱えたくなる。記憶を辿ろうとした、その時だった。ふと、別の言葉が脳裏をよぎる。
〝教え子に手は出しませんよ〟
あの時、自来也様にそう言った。
迷いもなくはっきりと否定したはずだった言葉。
カカシ「……前言撤回、か」
乾いた笑いが漏れる。俺は昨日、してはいけないことをした。視線がもう一度彼女へ向く。静かに眠るその姿がやけに無防備で、その分だけ現実味を帯びる。血の気がすっと引いていくのを感じた。
_______
_____
アンコ「あ、いいところにいたわね。あんたも保護者として来なさい」
そう言って強引に腕を掴まれ、引かれるまま数歩よろける。さっきまでナルトの修行のことを考えていたせいで、頭の切り替えが追いつかない。
カカシ「え、ちょ、保護者ってどういうこと?」
アンコ「あんたんとこの名前よ。あの子、成人してるって知ったから誘ったの。今から上忍数人で飲むことになってるんだけどね。あの子、えらく別嬪になって帰ってきたでしょ?」
その言葉に、ほんの一瞬だけ思考が止まる。
否定はできなかった。
アンコ「だからさ、狙ってるやつが多いのよ。私としては楽しく飲みたいから、怖い思いなんてさせたくないわけ」
カカシ「……つまり、俺は見張り役ってこと?」
アンコ「そつゆうこと」
ようやく状況を飲み込み、俺はわずかに視線を逸らしてため息をついた。めんどくさい。そう思ったところで、アンコが聞く耳を持つはずもない。返事をする間もなく腕を引っ張られ、そのまま店の中へと連れ込まれる。
カカシ「やれやれ……」
小さく息を吐く。そして気づけば、アンコに半ば強引に名前の隣へ座らされていた。用意周到なことで。そんなことを考えているうちに、飲み会は始まった。
『あれ、カカシ先生。病み上がりなのにいいんですか?』
カカシ「それはお互い様でしょ。なんならお前のほうが長いこと寝てたんだから…それより、ほどほどにしときなさいよ」
軽く釘を刺す。だが、その言葉を聞いているのかいないのか、彼女はすでに何人かの男に酒を注がれ、また注ぎ返しと忙しそうに盃を交わしていた。妙に手慣れていて、飲むペースも決して遅くない。それなのに、顔色ひとつ変わらない。強いな、と内心でわずかに感心する。
だが同時に、視界の端に映るものにも気づいていた。彼女へ向けられる視線。談笑しながらも、どこか値踏みするような目。話しかける口実を探しているのが見え見えの男もいる。最初はただの飲みの席だったはずなのに、少しずつ空気が変わっていた。ふと、グラスを持つ手が止まる。脳裏をよぎったのは、店へ来る前に聞いたアンコの言葉だった。
〝狙ってるやつが多いのよ〟
どうやら冗談ではなかったらしい。
カカシ「……」
無意識に、隣との距離をわずかに詰める。肩が触れるほどではないけれど、誰かが割り込んでくるには少し躊躇う程度の距離。そんな自分の行動に気づき、内心で苦笑した。
何をやってるんだか。
最初は渋々だった。面倒事に巻き込まれたとしか思っていなかった。だが今は、来て正解だったかもしれないと思っている。いや、もし来ていなかったら。そう考えた瞬間、彼女の隣で楽しげに笑う男が目に入り、わずかに眉をひそめた。
自分が狙われているなんて、これっぽっちも思っていないような無防備な顔。楽しそうに笑い、気持ちよさそうに酒を飲んでいる。その様子に、少しだけ肩の力が抜けた。サスケにやられた心の傷も、少しずつ癒えているように見える。ずっと無理をしていたのは知っている。だからこそ、今こんな状況でも、名前が笑っている姿を見ると少し安心した。今日は多めに見てやろう。そう思いながら、俺は静かにグラスを傾けた。
カカシ「まあ、お前が潰れても、ちゃんと家まで運んであげるから安心しな」
軽く冗談めかしてそう言う。
『ハハ、カカシ先生やけに優しいですね。なんか企んでます?』
カカシ「何も企んでないよ。ただ、楽しく飲んでほしいだけだ」
そう答えると、彼女は一度だけ目を瞬かせ、それからふっと微笑んだ。盃を口元へ運び、わずかに首を傾ける。何気ない仕草なのに妙に絵になる。不意に視線が留まった。気づいて逸らした時には、ほんの少しだけ遅れていた。
カカシ「……」
別に珍しいわけじゃない。綺麗な女なら、これまでだって見てきた。なのに、なぜだか目が離せなかった。
『ありがとうございます』
カカシ「……こちらこそ」
小さく返す。その言葉の意味は、自分でもよく分かっていなかった。こうして笑っていてくれたことへの礼なのか。あるいは。そこまで考えて、やめた。深く考えるようなことじゃない。そう思いながらグラスを傾ける。
まさか、酒を止めなかったことも。
「企んでない」なんて言った自分の言葉も。
この後、後悔することになるなんて。
この時の俺は、まだ知らなかった。
