風影奪還の章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『……来てくれたんだ』
静まり返った森の中。背後に現れた気配へ、私はそっと声をかけた。ここは、私と彼が初めて出会った大切な場所。
イタチ「……お前が呼んだんだろ」
『そうだね』
振り向くと、そこにはあの頃と変わらない柔らかな微笑みがあった。やっぱり、この顔だ。そう思った瞬間、胸の奥が熱くなる。会いたかった。その一言だけが頭の中を埋め尽くし、気づけば身体が先に動いていた。
彼の胸へ飛び込む。不意を突かれたのか、イタチは一瞬だけ目を見開いたけれど、拒むことはせず静かに腕を回してくれる。広い胸に額を預けると、背中へ添えられた腕の重み、衣越しに伝わる体温。そのすべてが懐かしかった。
『ずっと……会いたかった』
彼の胸元に顔を埋めたまま、小さく呟く。抱きしめる腕に、ほんのわずかに力が込められた気がした。
イタチ「……俺もだ」
たった一言。それなのに、その言葉は胸の奥深くまで静かに染み込んでくる。私は彼の胸元に額を預けたまま、ずっと心の奥に閉じ込めていた想いをゆっくりと言葉にした。
『……暁にいるのも、うちはを全滅させたのも……理由があるんでしょ。私、知ってるよ。イタチは理由もなく、そんなことをする人じゃない』
けれど、イタチは何も答えなかった。それでも私は、それを拒絶だとは思わなかった。むしろ、その沈黙こそが、どんな言葉よりも彼の苦しさを物語っているような気がした。
『サスケ、誤解したまま里を抜けた。あなたを殺す力を手に入れるために……』
イタチ「……いいんだ。それで。お前が……わかってくれているなら、それでいい」
どうして、そんなふうに笑っていられるのだろう。実の弟に恨まれ、復讐の相手として見られている。誰よりも大切に想っているはずなのに、その想いさえ伝えようとしない。全部一人で背負ったまま、何事もないように微笑むこの人を私はどうしたら救えるのだろう。
頬を伝った涙を拭うように、イタチの指先がそっと顎を持ち上げた。伏せていた視線を上げれば、そこには優しい瞳があった。
『……イタチ』
名前を呼ぶと、彼はわずかに目を細める。
それだけで胸がいっぱいになった。
『……大好き』
震える声で伝えると、彼は何も言わなかったけれど、私を包む腕には静かに力が込められる。逃がさないように、守るように。その温もりはどこまでも優しくて、私はそっと目を閉じた。吐息が触れ合うほど近くなり、ゆっくりと唇が重なる。柔らかくて温かい。ずっと欲しかった温度がそこにあった。
それからの日々は、イタチの厳しい修行に明け暮れた。暁の任務で彼が姿を消すことはあっても、戻ってきた途端、修行は何事もなかったかのように再開される。容赦はなく、気を抜く隙など一瞬たりとも与えられなかった。
この森は、かつて私の一族が暮らしていた場所だ。今もなお強い結界が残っているおかげで、暁に察知されることはなかった。本当は彼らを野放しにしておきたくなんてないけれど、今の私では歯が立たなかった。まずは強くなること。イタチのもとで力を磨くこと。それだけが、私に残された唯一の選択だった。
だったのだが。
一つだけ、どうしても無視できない問題があった。
『ま、待って!』
その声に、イタチの動きがぴたりと止まった。私を見下ろす視線が静かに落ちてくる。
イタチ「……どうした」
本当に理由が分からない、とでも言いたげな表情だった。その無自覚さに思わず言葉が詰まる。私は乱れた呼吸を整えながら、なんとか言葉を絞り出した。
『毎日の修行だけでも大変なのに… 夜も……その…これ以上は、本当に体力がもたない……』
言い終えると同時に、気まずい沈黙が落ちる。イタチは数秒だけ瞬きをし、わずかに首を傾けた。
イタチ「……何か問題があるのか」
『だから、それが問題だって……っ』
反論しようとしたその瞬間だった。イタチの指先がそっと私の顎を持ち上げる。不意に視線が絡み思わず息を呑んだ。逃げようと思えば逃げられるはずなのに、なぜか身体が動かなかった。唇が触れそうなほど近くなったところで、低く落ち着いた声が耳に届いた。
イタチ「誤解するな。お前を壊すつもりはない」
今度は抵抗する余裕すらなかった。触れられた瞬間、息を奪われる。動きはあまりにも静かで、無駄がなくて、完璧で、抗うという選択肢そのものが最初から用意されていない。唇が離れても、胸の奥に残る熱は消えない。私の瞳を見つめ、変わらない淡々とした声で告げた。
イタチ「……愛している」
その言葉は熱よりも深く、静かに体の芯へ落ちてくる。胸がきゅっと締めつけられ息が詰まる。言葉が追いつかず、ようやく絞り出した声はひどく弱々しい。
『…そんなの…ずるい。そんなふうに言われたら……逆らえない』
イタチはほんの一瞬だけ笑った。気づかなければ見逃してしまうほどかすかな笑み。
イタチ「…あぁ。お前の弱点はすべて理解している」
その声音に欲や支配の色はなく、あるのはただ、深く静かで逃げ場のない愛情の重さだけ。この人はいつだってそうだ。多くを語らないくせに、たった一言で心を揺さぶってくる。
私はそのまま彼にそっと引き寄せられる。耳元に落とされる低い囁きに、身体の力が抜けていき意識がゆっくりと溶けていった。
