風影奪還の章
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砂隠れに足を踏み入れた瞬間、想像以上に張り詰めた空気が肌を刺した。運び込まれたカンクローは全身を毒に侵され、すでに限界に近い状態だった。
状況を一目で把握したサクラは、余計な言葉を挟むことなく表情を引き締める。迷いのない手つきに、的確な指示。綱手様のもとで積み重ねてきた時間と技術が、今まさに形となって現れていた。処置が始まり、ひとまずこちらの出る幕がなくなった頃だった。近くで控えていた砂の忍が、ぽつりと口を開く。
砂忍「……カンクロー様は、ある女性に助けられてここまで運ばれてきました。あの方が現れなければ、とっくに命はなかったでしょう」
その言葉に思わず視線を向ける。
砂忍は少し言い淀んでから続けた。
砂忍「木ノ葉の忍だということは分かっています。ですが、名も所属も明かそうとしないのです」
木ノ葉の忍。警戒すべき話ではあるが、同時に命の恩人でもある。砂側が対応に困るのも無理はなかった。俺は簡単に状況を整理しながら、サクラへ視線を向ける。あちらは治療に集中していて、しばらく手が離せそうにない。
カカシ「サクラ、ここは任せても大丈夫そう?」
サクラ「ええ。カンクローさんのことは私に任せてください」
カカシ「だってさ」
隣のナルトへ声を掛けると、ナルトも力強く頷いた。
砂忍「では、ご案内します」
そう言って歩き出した砂忍の後に続く。名も所属も明かさない木ノ葉の忍。少し引っ掛かるものを覚えながら、俺とナルトはその人物が待機している場所へ向かった。
夕日が砂色を濃く染める通路。その奥にひとり立つ人物がいた。黒いマントを深くかぶり、顔は見えない。だが、纏う気配は静かで、どこか懐かしい。理由も分からないまま視線を向けていると、隣のナルトが遠慮なく声を張り上げた
ナルト「お前が助けてくれたやつか!本当にありがとな‼︎」
その瞬間だった。マントの人物の肩がぴくりと震えた。ゆっくりとこちらへ振り返り、フードの端へ手を添える。
『……ナルト?』
その声が耳に届いた瞬間、胸の奥で小さく何かが爆ぜた。ふわりとフードが持ち上がり、隠されていた姿が夕陽の中に現れる。こぼれ落ちたのは長く艶やかな白髪。一瞬、言葉を失う。そこにいたのは、記憶の中の少女ではなかった。雰囲気も、立ち姿も、纏う空気も。三年前とは比べものにならないほど変わっている。
大人になった。強くなった。
そして、綺麗になりすぎていた。
カカシ「名前……お前、なのか」
自分でも驚くほど低い声だった。信じられないものを見た時、人はこんな声を出すのかもしれない。けれど、そんなこちらの動揺などお構いなしに、隣のナルトが勢いよく飛び出した。
ナルト「名前!? なんだお前だったのか!離れてからずっと心配してたけど、無事でよかったってばよ!」
あっという間に距離を詰める。その真っ直ぐな言葉に、名前の青い瞳がわずかに揺れ、ふっと微笑んだ。
『ちょうど一年半くらいだよね。ナルト、大きくなったね。すっごくカッコよくなった!』
ナルト「へへっ、そうか?」
途端に顔を緩ませるナルトに、名前は声を立てて笑った。それから視線がこちらへ向き、青い瞳がまっすぐ俺を映した。
『……カカシ先生はー、変わらずですね』
昔と同じような軽い調子。けれど、その一言だけで胸の奥が妙にざわつく。懐かしいはずなのに、同時にどこか別人のようにも見えた。
大人になったからだろうか。それとも、俺の知らない時間を積み重ねてきたからだろうか。視線を外すべきだと分かっているのにできなかった。目で追うたび、知らない表情を見つける。
カカシ「……綺麗になったな」
よく使うはずの言葉だった。軽く流すための便利な一言のはずだった。けれど、この時だけは違う。飾りも下心もない、ただ心の奥に沈んでいた感情が、ふと口をついて出ただけの。紛れもない本音だった。
