サスケ奪還編
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『…カブト』
掠れた声で名前を呼ぶと、女の唇がゆっくりと歪んだ。
カブト「呼び捨てで呼んでくれるほど親しくなったのかい?それは嬉しいな」
ぞくり、と背筋に寒気が走る。目の前にいるのは確かに彼女なのに。喋っているのはあの男だ。理解が追いつかない。そんな私を眺めながら、女はゆっくりと両手を広げた。まるで、自慢の作品でも見せるみたいに。
カブト「…どうだい、この子。君のクローンなんだよ」
心臓が大きく跳ねる。視界の奥で、女が静かにこちらを見つめていた。感情のない、空っぽな瞳で。
カブト「君の一族は、ずいぶん特殊らしいね。それに……最強の一族だとも聞いている。必ず大蛇丸様の役に立つはずだと思って、実験している最中なんだ。君の祖先をベースにして、そこへ君の血液から採取したデータを埋め込んでいる」
過去に数回、血液を取られた記憶が脳裏に蘇る。
カブト「いい実験データが欲しいからね…頑張ってくれよ」
カブトが言い終えると女が動く。距離は消え、拳と拳がぶつかり合った。金属が衝突したかのような鈍い衝撃音が走り、腕へ凄まじい反動が走った。その刹那、相手の腕にぴしりと亀裂が走るのが見えた。
『……っ』
土が崩れるみたいに、皮膚がぽろりと剥がれ落ちる。その下から現れたのは、生身とは思えない異様な質感だった。続く一撃で肩口が大きく欠け、散った破片は血を流すことなく、そのまま土へ変わるように地面へ落ちていった。
未完成。そう理解するのに時間はかからなかったが、彼女の力は私をも上回っていた。カブトの言った〝祖先〟その存在が、この化け物を成立させているのだろう。次の瞬間だった、彼女が視界から消える。
『――!?』
反応するより早く背後へ回り込まれていた。腹部へ重い衝撃が突き刺さり、肺の空気が一気に押し出された。視界が激しく揺れ、口の端から血が零れ落ちる。膝が崩れ、どうにか倒れまいと地面へ手をついた瞬間、指先に冷たい土の感触が伝わった。視界の端で、クローンが静かに歩み寄ってくる。そこに感情はない。ただ、私だけを映す冷たい瞳があるだけだった。
カブト「そこまでだ。生け捕りと言っただろう」
場違いなくらい軽い声が落ちた。
カブト「……君の祖先は、本当にすごいね。ギリギリだったけど、この時点でオリジナルすら上回るとは。いや……戦闘前からの疲労が影響しているのかな」
分析するようにぶつぶつと独り言を続けるその声が、やけに遠く聞こえた。意識が薄れていく中、必死に頭を回す。敵の体はもう崩れかけている。あと少し、ほんの少しでも体が動いてくれれば、みんなのところへ戻れる。サスケを追える。
……そのときだった。
頭の奥で、低く冷たい声が響く。
〝君は本当に、弱いよね〟
視界が揺れた。目の前に立っていたのは、もう一人の私。幻影のようで、けれど、はっきりとした輪郭を持つ存在。その私は、くすくすと笑いながら、こちらを見下ろしている。
〝私の力を、貸してあげる。そうすれば……サスケを、救えるよ〟
分かっていた。これは触れてはいけないものだ。それでも、サスケを救える。その言葉だけが頭の中に焼きついて離れなかった。気づけば、私は差し出された手へ触れていた。
その瞬間、皮膚の下を暴れるようにチャクラが流れ、視界が赤く滲んだ。制御など、最初からできていなかった。ドクドクと脈打つ音が、頭の中で異様に大きく響く。熱い、苦しい。なのに笑いたくなる。気づけば口角が勝手に吊り上がっていた。
『……は、っ』
自分でも知らない声が漏れ、身体が地面を蹴っていた。一瞬で間合いを詰め、拳を叩き込むたびクローンの身体が崩れていく。腕が砕け、脚が千切れ、顔が潰れ、土の塊みたいに地面へ散っていく。それでも止まらない。
殴る。叩く。何度も。何度も。
衝撃のたびに大地が揺れ、砕けた破片が辺りへ飛び散った。クローンはすでに限界を迎え原型すら残っていない。完全に動かなくなっているのに、拳だけがなおも振り下ろされ続ける。
もっと。
もっと壊さなきゃ。
全部、壊してしまわなきゃ。
そんな衝動だけが、頭の中を支配していた。
『アハ……アハハハハ‼︎』
それは私の声だったけれど、私のものではない。呼吸は荒く、拳は裂け、血が地面に落ちる。腹に穿たれた穴から流れる血さえ、意識の外だった。それでも拳は止まらない。
「……もう、いい」
背後から落ちたその声は、不思議なほど静かだった。怒鳴り声でもない、命令でもない。ただ、空気へ溶けるみたいな低い一言。振り下ろそうとしていた拳が、ぴたりと止まる。空中で静止したまま、指先だけがぴくりと震えた。荒れ狂っていた呼吸が、一瞬だけ詰まる。
誰。
そんな疑問すら、どこか他人事みたいに頭を掠めた。私はゆっくりと、軋むような感覚と共に首を回す。その先に立っていたのは、見慣れた仲間の姿だった。
『……ダメ……シカマル……』
喉の奥が焼けるように痛い。声を出したつもりなのに、掠れてほとんど音にならなかった。それでも、どうにか言葉を絞り出す。
『……逃げて……』
忠告だった。懇願だった。そして、それが最後に残った理性だった。
テマリ「⁉︎そいつから離れろ‼︎‼︎」
鋭い声が響くその瞬間、胸の奥で何かがぷつりと切れた。口元が、ゆっくりと吊り上がる。まるで新しい獲物を見つけた獣みたいに。
