中忍選抜試験編 前編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
カカシ「無茶はするなよ」
奴らに〝お気に入り〟だと言われるのも、仕方ないのかもしれない。自分でも認めざるを得ない。俺は名前に対して、少し甘いところがあるようだ。
その直後。
『火遁・蒼火球の術!!!』
名前の口から放たれた青く巨大な炎が、会場の半分近くを覆い尽くした。これほどの規模の術を出すには相当なチャクラが必要だ。その成長ぶりに、思わず息を呑む。元々呑み込みの早い子だとは思っていたが、まさかここまでとは。
アスマ「おいおい、あれ本当に例の子か?」
カカシ「……だから、それやめてくれ。名前だ。まあ、お前の班の任務を見学させた子ではあるけどな」
アスマ「マジかよ……見違えるってレベルじゃねぇな。もはや別人じゃねぇか」
名前の戦闘スタイルは本来サポート型だ。情報収集能力と野生の勘を活かし、的確な判断で全体をまとめるタイプ。だが、今は違う。一連の動きに無駄はなく、最初から攻撃型として組み立てられているかのようだった。
まさか、一人で戦わせるとここまでの動きを見せるとは思わなかった。様々な役割に対応できる柔軟さ。もしかすると名前は、この中で中忍に、最も近い存在かもしれない。けれど、その評価を打ち消すように、すぐ一つの弱点が浮き彫りになる。
アスマ「じょーちゃんの成長ぶりには驚いたが……カブトが押し返してきてるな」
カカシ「……そうだな」
認めたくはないが、このまま名前にさらなる変化がなければ、この試合はカブトが勝ち上がるだろう。その会話を聞いていたナルトが、勢いよく声を荒げた。
ナルト「何言ってんだってばよ! まだわかんねーじゃねーか‼︎」
アスマ「確かに強くなったが、経験の差が出てるな」
サクラ「経験の差? でも、今は名前が押してるように見えますけど…」
カカシ「うん、今はね。確かに名前は強くなった。カブトにも引けは取らない……けど、場数が違う。お前らも分かるだろ? 波の国での経験だ」
ナルト・サクラ「…………」
カカシ「そういうことだ。あいつは、まだ一度も〝あれ〟を経験していない。それが、もろに出てる」
動きは悪くない。だが、一撃一撃に重みが足りない。実戦経験の差に加え、知り合い相手だからこそ出てしまう、あいつの甘さ。その歪みが確実に隙を生んでいる。そして、その考えを裏付けるように展開は一気に動いた。
カブトは上から押さえつけるように間合いを詰め動きを封じ、名前が身をよじるたびに、掴んだ腕をさらに締め上げていく。痛みに顔を歪めても、彼女は決して『降参』とは言わない。審判も動かない。試合として成立している、そう判断したのだろう。
『っ……あ”ぁぁ……』
そのかすれた声に、俺の指先がわずかに反応した。胸の奥がざわつく。ここからじゃ二人の会話は聞こえないが、カブトの口元がわずかに吊り上がるのが見えた次の瞬間。
『あ”ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎‼︎‼︎』
会場全体が、その悲鳴に震えた。
サクラ「名前⁉︎ ……そんな……腕が……」
カカシ「……あれじゃあ、もう印は結べないな」
カブトは躊躇なく腕を折った。聞いたことのない叫び声に、反射的に身体が前へ出かけたが、必死にそれを押し留めた。今ここで動けば試験そのものを壊す。そう分かっているのに、指先だけが止まらず、小刻みに震えていた。
カブトが彼女から離れるのと、審判が動いたのはほぼ同時だった。止めに入ったのを確認し、迎えに行けると判断して壁から背を離す。
ナルト「待てってばよ!!!」
ナルトの叫びが、空気を切り裂いた。
ナルト「名前‼︎ 行けってばよ!! お前の力は、こんなもんじゃねーだろ!!」
サクラ「ナルト!やめなさいよ!これ以上やったら名前、死んじゃうかもしれないのよ!」
『……………』
カカシ「……おい」
思わず漏れた声に自分でも驚く。ナルトの叫びに引き寄せられるように、視線の先で名前がゆっくりと立ち上がった。折れた腕を押さえながら、ふらつく足でどうにか身体を支えている。だが、見れば分かる。もう限界だ。今にも崩れ落ちそうな身体のくせに、それでも前を見ている。
カブト「往生際が悪いな。これ以上は手加減できないよ? ……殺す気で行くけど、それでも降参する気はないのかい」
『………………』
返事はない。ただ揺れる身体で、それでも立ち続けている。その沈黙こそが答えだった。
カブト「返事は……なし、か。残念だけど、さよならだ」
告げた次の瞬間、奴の姿が掻き消え、名前の背後に回り込んでいた。だが、反応がない。避ける気配も、防ぐ動きもない。痛みか、それとも意識が途切れかけているのか、名前の身体は微動だにしなかった。まずい、と判断するより先に身体が動く。
ナルト「名前!起きろってばよ!」
サクラ「いやっ……!」
張り詰めた空気の中、悲鳴のような声が響く。手すりを握る手に無意識に力がこもり、身を乗り出したその時だった。ほんの一瞬、空気がわずかに揺らぐ。
違和感。
次の瞬間――ドガッ‼︎、と鈍い衝撃音が会場に響き渡り、カブトの身体が大きくのけぞった。
カブト「ごふっ⁉︎」
名前はその場に崩れ落ちるように身を低く沈め、その反動を利用するように、下から鋭く顎を蹴り上げた。空中に浮いたカブトの口元から、赤が散る。さらに彼女の姿が消え、捉え直した時には、すでに空中にいるカブトの正面へ回り込んでいた。
振り抜かれる踵。
ズドンッ‼︎
叩きつけられた衝撃に、地面が大きくひび割れ、カブトの身体がそのまま沈み込む。間髪入れず、彼の両腕を踏みつけて完全に動きを封じると、折れていない左手でクナイを握り込んだ。一連の動きに迷いは一切ない。あまりにも一瞬の出来事に会場の空気が凍りつく。
ガイ「素晴らしい体捌きだ……! あの娘、なかなかやるではないか!」
アスマ「おいおい……最初、手ぇ抜いてたのか? お前も演技が上手いな、カカシ」
カカシ「……いや……」
違う。これは、俺たちの知っている名前じゃない。振り下ろされようとするクナイ。その軌道を目で追いながら、反射的に身を乗り出す。
カカシ「名前……もういい。終わりだよ」
届くかどうかも分からない声。それでも、止めなければいけないと直感が告げていた。クナイは首筋すれすれで止まった。
カブト「……ゴフッ……降参、だ……」
かすれた声が、静かに響く。張り詰めていた空気が一気にほどけ、予選は名前の勝利で幕を下ろした。会場は歓声とざわめきに包まれる。だが、その中心にいるはずの名前は、どこか現実から切り離されたように、ただ静かに立っていた。
背後に立つ俺の存在にも気づいていないのか、ふらりと身体を揺らし、そのまま階段へと向かう。呼び止める間もなく、医療班が駆け寄ったその瞬間、力が抜けたように膝がすとんと落ちた。
カカシ「っと……」
倒れ込む寸前の身体を、背後から抱き留める。腕の中に収まったその軽さに、思わず息を呑んだ。
カカシ「よく頑張ったな。……悪い、この子は俺が運ぶ。名前、少し動くぞ」
返事はないけれど、顔を上げることなく視線だけがわずかにこちらを捉えた。支えた腕に伝わる重みが、彼女の限界をはっきりと物語っている。
カカシ「……大丈夫。任せろ」
短く告げて印を結ぶ。
医療忍「大丈夫です。しばらく眠れば回復します」
カカシ「どーも」
静まり返った医務室。外の喧騒が嘘のように遠く、ここだけ時間が緩やかに流れている。ベッドに横たわる彼女の寝顔を見つめる。普段の穏やかな表情とは違い、力を使い果たしたあとの、どこか無防備な顔。
あんな無茶、する子じゃないんだけどな。そう思いながら椅子に腰を下ろし、折れた腕に負担がかからないよう、そっと位置を直す。触れる指先に、まだかすかに残る体温が伝わった。
カカシ「おやすみ。……よく頑張った」
ぽつりと落とした声は、静かな部屋に溶けていく。守らないとすぐ壊れてしまいそうだ。そんな考えが、自然と浮かんでしまったことに、小さく息を吐く。
ほんと、俺は甘いな。
