木の葉崩し編
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『ん……』
重たいまぶたをゆっくり持ち上げる。
ガアラ「起きたか。動くな、傷口が開くぞ」
すぐ近くで落ちた声は驚くほど静かだった。目の前にあるのは、さっきまでの狂気も殺気もない、砂みたいに穏やかで、どこかやわらかさを宿した瞳。触れたくて、自然と手が伸びたけれど。
『っ……』
脇腹に走る鋭い痛みが一気に現実へ引き戻す。視線を落とすと、細い木の枝が深く刺さっていた。下手に動いたらまずいやつだ、と思わず苦笑が漏れる。
気づけば、私も我愛羅も満身創痍で、まともに動ける状態じゃない。それでも、頬に触れたのは彼のチャクラを含んだ砂だった。
ああ、そうか。
落ちる時、守ってくれたんだ。
『……ありがとう』
ガアラ「…………俺にも、いつか分かるだろうか」
その言葉は、お礼への返事じゃなかった。さっきの会話の続きで、まだ不安があるのだとすぐにわかった。
『大丈夫。君ならできるよ』
ガアラ「……我愛羅だ」
『我愛羅……もし、またあなたをいじめようとする人が現れたなら、私を呼んで。必ず助けに行く。それで、そいつの顔、思いっきし殴ってやるんだから』
今できる一番の笑顔を向ける。私はいつだってあなたの味方で、友達なんだって、伝わるように。
ガアラ「……フン。お前など呼ばずとも、そんな奴ら俺が殺してやる」
『だから、無闇に殺しちゃだめなの』
ガアラ「……本当に来てくれるのか」
ぽつりと落ちたその声は、小さくて、どこか不安そうだった。
『うん、約束する』
迷わず答える。
ガアラ「……わかった」
『次に会うの、楽しみにしてるよ。……ほら。迎えが来たみたい』
遠くから、彼の名を呼ぶ声が近づいてくる。砂の仲間たちが駆け寄ってくる気配が、確かにそこにあった。ほらね、君は一人じゃない。ずっと、すぐ近くにいたんだよ。ちゃんと伝えたかったのに、言葉にはならなかった。
『……っ』
視界が揺れ、意識がすとんと抜け落ちる。まるで黒い水の底に引きずり込まれるみたいに、ゆっくりと沈んでいく。遠ざかる音、遠ざかる光。最後に見えたのは、こちらを見つめる我愛羅の瞳だった。
ハハッ、みんなに死なないって言ったのに、ここまでかも。ちょっと無茶しすぎたみたい。もう、体の感覚がほとんどない。
ごめん、みんな。
約束、守れなかった。
その時、完全に落ちるはずの意識の底で、かすかに〝声〟が引っかかった。まるで水の向こう側から聞こえるみたいにくぐもった音。
〝なぜ力を貸していた?あれだけ欲していた体を、乗っ取る絶好の機会だったはずだ〟
〝フフ、それじゃあ面白くない。それに〜、私いいこと思いついちゃったの〟
〝……いいことだと?〟
〝熟した果実ってね、最高に甘くて、美味しいんだよ。それに、あなただって…この子に死なれたらまずいんでしょ?〟
〝……なぜそう思う〟
〝私の勘だよ〜〟
〝お前たち一族を知っているが、知恵のある個体は初めて見た。先が恐ろしいな〟
〝フフ……早く熟さないかなぁ。それまで私は、あなたに力を貸してあげる〟
そして。
〝大丈夫だよ、君は死なないから〟
その言葉だけが、やけにはっきりと届いた。沈みきる直前、誰かに掴まれたような感覚。そこで意識が完全に途切れた。
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2年後。
任務を終え、木の葉へ戻る日。木の葉の忍と砂の忍がそれぞれ挨拶を済ませ、場がひと段落ついた頃、ふと静けさが落ちた。その中で、風影となった我愛羅が口を開く。
ガアラ「……あの時、お前が教えてくれたんだ」
低く、落ち着いた声。昔とは違う柔らかさがあった。
ガアラ「きっと……いや、お前を初めて見た時からだ。俺は、お前に惹かれていた」
そう言って、彼はまっすぐ私を見る。
迷いも、恐れもない瞳。
小さく息を吸い、言葉を結んだ。
ガアラ「名前。……俺は、お前のことが好きだ」
