木の葉崩し編
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本当に生意気なやつだった。何度見つけても、あと少しのところですり抜ける。気配を消し、地形を使い、ギリギリで逃げる。名前を追い詰めたのは、制限時間が残りわずかになった頃だった。
サスケ「ハァ……ハァ……ったく、手こずらせやがって。もう逃げ場はねぇぞ」
滝壺の端。彼女の背後は断崖絶壁。ここから落ちれば、ただじゃ済まない高さだ。息を整えながら一歩踏み出す。
『ハァ……ハァ……写輪眼は反則だよ』
サスケ「使っちゃいけねぇなんてルールはねぇだろ」
『まあそうだけど……ふふ。写輪眼使わせるくらいには、成長したってことかな』
その言葉に、わずかに目を細める。否定はできない。森に入ってからは、写輪眼がなければ完全に見失っていた。
サスケ「……そうだな」
思わず零れた本音だった。その一言を聞いた瞬間、彼女の表情がぱっと明るくなる。まるで花が咲いたみたいに、無防備に笑った。
『あはは、嬉しいな。はい、返さなきゃね』
差し出された額当て。夕日に照らされて、滝が金色にきらめく。水音と光が重なり合う中で彼女はただ楽しそうに笑っていた。見慣れているはずの顔なのに。
サスケ「……」
言葉が出ない。どこか違って見えて、妙に目が離せない。綺麗だ、なんて言葉が一瞬よぎって、すぐに飲み込む。そんなこと口にする理由もない。ただ、差し出された額当てを受け取るまでの一瞬がやけに長く感じた。
『えっ』
サスケ「なっ⁉︎」
次の瞬間、彼女の手から額当てが掠め取られ、鳥が滝壺の上空へと舞い上がる。判断は一瞬だった。今、飛べば届くけど、落ちるのは確実だ。たった一歩、それだけなのに体が動かない。なのに、名前は迷わなかった。危険だと分かっているはずなのに、考えるより先に崖の先へと身を投げる。
サスケ「おい、待て――!」
声が届くより早く、その背中は宙へ躍り出ていた。
『──っと!』
風を切りながら鳥の軌道を読み切る。空中で身体を捻り、額当てを奪い返すと、そのままこちらへ放り投げた。
サスケ「っ……!」
反射的に掴む。指に伝わる感触で確かに取り返したと分かるけど、意識はそっちじゃない。伸ばした手は空を掴むだけで届かない。彼女は風を受けながら無邪気にVサインを作って笑った。
『大丈夫〜!』
サスケ「……っ」
軽すぎるその一言に胸の奥が強く締めつけられる。
大丈夫なわけ、あるかよ。
額当てを巻き直し、そのまま迷わず飛び込んだ。冷たい水が全身を叩く。息を止め、目を凝らすと、滝底の方へ沈んでいく名前の姿がかろうじて視界に入った。
……ほんと、呆れる。
泳げないくせに、あんな高さから飛び込むなんて。俺の言うことなんて、いつだって聞きやしない。自分勝手で、自由奔放で、それなのにさっきの笑った顔が頭から離れない。
腹が立つくらい、綺麗で。
だから。
サスケ「……っ」
息を押し殺しながら水を掻く。
だから、俺の隣で笑ってろよ。
その言葉は、やっぱり声にはならないまま胸の奥に沈む。伸ばした手に、力を込める。今度こそ、届かせるために。
