木の葉崩し編
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『……っ⁉︎ か、かかし先生……』
気づけば私は体を支えられ、カカシ先生の腕の中へ引き寄せられていた。ふわりと伝わる体温。その温もりに、張り詰めていたものが一気に緩む。〝助かった〟そう思った瞬間、全身から力が抜けそうになった。涙が滲みそうになるほどの安堵が、胸へ押し寄せる。
けれど、その安心すら次の瞬間には凍りついた。カカシ先生の瞳が、今まで見たことがないほど、鋭く冷えていたから。
カカシ「こっぴどくやられたな。もう大丈夫だよ。で……どういう状況かな、これ?」
ガアラ「……クッ……貴様も、守るのか……。まあいい……あいつも殺して……次に、お前も殺してやる……」
我愛羅は低く呟いた直後、何もないはずの額を押さえ、苦しげに顔を歪める。呼吸が乱れ視線が揺れる。まるで内側で何かと戦っているようだった。
カカシ「この状況見て、〝はいどうぞ〟って行かせると思ってるの?どう見ても試験外だよね、これ」
ガアラ「好きにすればいい。こんな試験、俺にはどうでもいいことだ」
『…カカシ先生!私は大丈夫!私から喧嘩をふっかけたの、だから試験は…』
カカシ「はいはい、その嘘は後で聞くよ。君は砂の忍の…我愛羅君だっけ?今回は見逃すけど……次はないと思ってね」
その瞬間、空気がさらに冷え込む。声色は柔らかいけれど、その奥に潜む殺気だけが鋭く尖っていた。
ガアラ「……」
しばらくの沈黙。やがて砂の動きが止まり、無言のまま身を翻し彼は背を向けた。気づけば、声が出ていた。
『あ、あの…! その……試合、がんばってね!』
ガアラ「……」
さっきまで殺されかけていた相手に向ける言葉じゃない。自分でも、少し呆れる。けれど、ここまでされても、私は彼を嫌いになれなかった。案の定、我愛羅 は何も答えない。立ち止まることもなく、そのまま静かに闇へ溶けるように姿を消していった。
あとに残ったのは気まずい沈黙。ピリッと張り詰めた空気の中、私を支える手の力だけがやけに強く感じられた。なんだか、嫌な予感がする。私はそっと顔を上げ、カカシ先生にしっかりと礼を告げ、静かに口を開いた。
『あの……おろして、ください……』
けれど、カカシ先生は返事をしない。抱えられたまま沈黙だけが続き、嫌な予感がじわじわと膨らんでいく。もう一度呼ぼうと口を開いた、その瞬間。
『カカ――ヒッ!?』
カカシ「ん?」
にっこりと笑って、こちらを見る。だめだ、この笑顔は危険だ。背筋がぞくりと冷え、忍としての本能が全力で〝逃げろ〟と警鐘を鳴らす。けれど、すでに私は彼の腕の中間。逃げれるはずがなかった。次の瞬間、質問が雪崩のように押し寄せる。
カカシ「降ろして立てるの? 歩けるの?なんなの、さっきのバレバレの嘘?気づかないとでも思ってる?俺が間に合わなかったらどうなると思ってたの?で、なんで助け呼ばなかったのかなー?」
『ご、ごめんなさい……』
笑顔で怒られるのが一番怖い。反論する余裕なんてなくて、素直に謝ることしかできなかった。
カカシ「たく……素直でよろしい。でも、もう少し自分の身体労わりなよ。お前は自分のことになると、すぐ二の次にするんだから。見てるほうがヒヤヒヤするよ」
深いため息のあと、ようやく地面へ降ろしてくれた。そのまま私たちは、サスケの試合を見るため観客席へ向かって歩き出した。本来なら足取りは重いはずなのに、不思議と隣を歩く時間は静かで、どこか懐かしい。歩きながら、最近の修行の話をする。ほんの短いやり取りだったけれど、胸の奥がじんわりと温かくなるようだった。
カカシ「…そういえば、砂の子に、なんであんなこと言ったの?」
『“あんなこと”って……試合の応援?』
少し考えてから、小さく息を吐く。
『……だって、サスケとの試合が楽しみだから。それに……多分、あの子はそんな悪い子じゃないよ』
それは、ほとんど直感だった。理由なんてうまく説明できないけれど、嫌いになれないのも、きっと同じ理由だと思った。我愛羅 のことを、私はまだ何も知らない。だからこそ、もう少し彼のことを知る必要がある気がしていた。
カカシ「殺されかけて、その感想はすごいね。俺の見立てでは、あの子は人を何人も殺ってる。そういう目をしてた」
『うん。でも……助けを求めてた。どうにかしてあげたいって思ったの』
自分でも不思議だった。怖くなかったわけじゃない。実際、殺されかけた。それでもら我愛羅 の目の奥に、ほんの一瞬だけ見えたものが忘れられない。
カカシ「……本当に、お前には驚かされてばかりだよ」
その声には、呆れと。
ほんの、ほんの少しの優しさが滲んでいた。
