中忍選抜試験編 前編
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予選会場の片隅。人の流れから意図的に外れた場所。観客のざわめきは壁一枚向こうにあり、ここには静かな空気だけが滞留していた。密談にはちょうどいい。
オロチマル「それと……サスケ君の隣にいた白髪の子」
不意に話題を振られ、思考を切り替える。
オロチマル「彼女の情報も渡しなさい」
カブト「……名前のことですか」
忍識札の束を整えながら記憶を辿る。サスケ君の呪印の状態を観察するために接触した班。その中にいた少女だ。彼と同じ班である以上、行動を共にしていたけど、特別印象に残る存在ではなかった。
カブト「彼女と接触したのは、試験の中盤以降です。特に問題視する点はありませんでした。実力も……平均的ですね」
サスケ君の忍識札を弄ぶ大蛇丸様の様子に、言葉にできない違和感を覚えながら、静かに名前の忍識札を差し出した。
そこに記されているのは、
・体術:平均
・忍術:平均
・幻術:平均
どこにでもいる特徴のない忍。そのはずなのに。
オロチマル「…面白いわね。カブト。少し頼みたいことがあるの」
サスケ君との戦闘で彼女に折られたはずの腕を、大蛇丸様は何でもないことのように軽くさする。そこには骨折の痕跡など一切残っていない。
カブト「……相変わらず、仕事使いの荒いお人だ」
そう言いながらも、口元は自然と吊り上がっている。
興味深い。
大蛇丸様が、サスケ君だけでなく、あの少女にまで視線を向ける理由。それはきっと、才能や力といった単純なものではない。静かに気配を消し、会場の影へと溶け込む。
名前。
君は一体、どんな〝特別〟を秘めているのだろうか。
______
__
掲示板に、私の名前が浮かび上がる。
サスケ、ナルト、サクラ。そして、最後に私。
カカシ「ついにお前の番だな。無茶はするなよ」
ナルト「うおーーーい! 名前‼︎ 頑張ってこいってばよ! カブトさんとは仲良くなったけど、ここは真剣勝負の場だ! 遠慮なくやっつけてこいってばよ‼︎」
『ナルトってスタミナお化けだよね』
ナルト「お、お化けじゃねーってばよ‼︎」
『褒めてるの』
ナルト「褒めてるなら、まあいいけどよ! 頑張れってばよ!』
『フフッ……なんか元気出た。ありがとう、ナルト。行ってくるね‼︎』
手を振り、階段を下りていく。背後では、照れたように頬を緩ませているナルト気配が伝わってきて、思わず小さく笑みがこぼれた。本当は、この試験を辞退しようか少しだけ迷っていた。
みんなと再会してから、どうも調子が悪い。戦うたびに意識がどこかへ引きずられるような、不快な感覚が強くなっている。それでも、あれだけ応援されて逃げるのは違う。深く息を吸い込み、ぎゅっと拳を握りしめた。会場へ降り立ち、目の前のカブトさんを見据える。
『カブトさんには、助けられましたけど……全力でいきます』
カブト「僕も、君たちとは当たりたくなかったけどね。……残念だ。けど、手は抜かないよ」
その声はいつも通り穏やかだったのに、どこか一線を引かれたような距離を感じた。違和感を覚えつつも、試験官の合図と同時に互いに地を蹴る。
冷静に分析すれば、結果は引き分けが限界だと思う。カブトさんの実力はサスケと互角、もしくはそれ以上。けど、頭をよぎるのはあの森での出来事だ。一瞬だけ見せたあの殺気。あれが本性だとしたら、今の彼の力は計り知れない。
それに、もう一つの問題。
またあの感覚が押し寄せてくる。
来る。
意識が、引きずられる。
あれが、始まる。
〝……か…………って〟
『っ……しまっ――⁉︎』
幻聴が走ったその瞬間。カブトさんが一気に間合いを詰め、私を地面へ押し倒した。背中に叩きつけられる衝撃と同時に、腕を極められる。
カブト「隙が出てくれて助かったよ。続けてたら、僕の方が危なかった。さて……降参、してくれるよね?」
『…っ……カブトさん……詰めが甘いですね。本気かどうかくらい……戦ってたら分かりますよ。……なんで、こんなことしてるんですか?』
時間を稼げればいい、ほんの一瞬でも隙ができればいい。そんな思いで口にした言葉だった。けれど、その一言を発した瞬間、彼の表情から笑みがすっと消える。この選択は間違いだった。そう思い知るのに時間はかからなかった。
カブト「……ふーん」
低く落ちる声。空気が一気に冷え、はっきりとした殺気が皮膚を刺す。次の瞬間、肩に鈍く重い衝撃が骨へと直接叩き込まれた。
『っ――――‼︎ あぁぁぁぁぁぁ‼︎』
視界が白く弾ける。
叫びが喉の奥から無理やり引きずり出された。
