出会い編
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『え、えっと……だ、大丈夫ですか?』
声をかけた瞬間、自分でも驚くほど喉が強張った。それでも言葉を止められなかったのは、こんな森の奥で人に出会うなんて思っていなかったからで、ましてやその相手が、木にもたれるように横たわる銀髪の忍だったからだ。
私の声に応えるように、彼はゆっくりとこちらを見上げる。黒い布で口元を覆い、額には木ノ葉の額当て。ひと目で忍だと分かるその姿に息を呑むと同時に、忍装束のあちこちに滲む血が視界に入った。けど、その眼差しは不思議なほど穏やかで、怪我を負っているはずなのに落ち着いていた。関わらない方がいいって分かっているのに、それでもなぜか放っておけなかった。
「……ああ。ごめん、驚かせちゃったかな」
低く落ち着いた声が、すっと耳に馴染むように響いた。
「こんな森の奥で人に会うとは思ってなくてね。少し動けなくてさ。もしよければ、手を貸してくれると助かるんだけど」
そう言って、彼は困ったように目元だけで微笑んだ。その仕草に一瞬だけ気を取られたものの、すぐに我に返る。怪しい。どう考えても怪しすぎる。それが彼の第一印象だった。
「うん、怪しいよね。この格好で“悪いことはしない”なんて言っても、説得力ないし」
『⁉︎』
「って、そんなに驚かなくても。君、口に出してたよ」
『えっ……す、すみません……』
反射的に口元を手で押さえ、そのまま頭を下げる。すると男は一瞬だけ目を丸くしたあと、ふっと力の抜けたように柔らかく笑った。その穏やかな笑みに、さっきまで張り詰めていた緊張が、少しずつほどけていくのを感じる。不思議と、この人は大丈夫だと根拠もなくそう思ってしまった。
これが、はたけ カカシとの出会いだった。
『……血、ついてます』
意を決して近づくと、はっきりと目に入ったそれに小さく息を呑む。服だけじゃなかった。よく見ると、腕にも足にもはっきりと残る傷跡。
「ああ、これ?大丈夫。俺のじゃないよ」
まるで本当に些細なことのように、軽く言ってのけるその態度に、逆に少しだけ警戒が強くなる。「俺のじゃない」つまり、誰かと戦ったのは確かで。目の前のこの人がいい忍びなのかどうか、私には判断がつかない。
「少しチャクラを使いすぎて動けないんだ。……数日休めば回復すると思う。もしよければ、このあたりに滞在させてもらえないかな?」
そう続けられても、すぐに頷くことはできなかった。助けるべきか、それとも離れるべきか。ほんの一瞬のはずなのに、その迷いはやけに長く感じられた。
それでも、気づけば私は膝をつき彼のすぐそばに座っていた。考えるより先に体が動いていたことに自分でも驚きながら、袖を破って即席の布を作る。そして、そのまま彼の腕へと手を伸ばした。そっと巻きつけたその瞬間、男の瞳がはっきりと見開かれた。
『ここも……それに、足も怪我してます……おじさん、嘘つくの下手ですね』
「はは。見抜かれてるねぇ……ありがとう。まさか、助けてもらえるとは思わなかったよ」
布越しに伝わる体温は、思っていたよりもずっと温かい。けれど私は何も返すことができなかった。一瞬でも、離れるという選択を考えてしまった自分がいたから。多分この人は、その迷いさえも全部気づいていた。それでも何も言わず、ただ受け入れるみたいに笑うから、余計に胸が苦しくなる。
この出会い、この選択こそが。
止まっていた私の時間を、静かに動かし始めた瞬間だった。
もしかしたら、
止めようとしても止められなかったのかもしれない。
〝最後の戦い〟に必要なピースは、
この時すでに、揃ってしまっていたのだから。
