第3話 出会い
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「ここが床屋な」
「そんでここが四越デパートで」
「こっちが俺がいつも玉打ってるパチ屋」
「ここが市民憩いの公園だ」
銀さんはわたしを次々と江戸の町を案内してくれたが、途中で寄った公園にダンボールを身にまとった奇妙な人に出会った。
「そんでこれが公園の主、マダオだ」
「え…っとマダオ?さん?」
ちょっと銀さんどういう紹介の仕方!?とマダオさんという方が声を張り上げる。
「菫ちゃん、マダオは初めて?」
「えっと…そうですね、初めましてです」
「銀さん、俺がいくらマダオだからって初めましての子にその紹介は酷すぎるんじゃないの?」
わたしたちは時間をかけて江戸の町を練り歩いた。ガイドさんのように丁寧にとまではいかないが、わたしの知らない江戸を銀さんはたくさん知っていたので、とても充実した社会科見学のようだった。
「よし、マダオ見学はここまでにして。菫ちゃん、どっか行きたいとこねェの?」
「え、無視?銀さん?ちょっと?」
マダオさんが隣で銀さんに食いかかるが、銀さんは上手くそれをかわしていた。
「そうですね…実は大江戸スーパーに行きたくて屋敷を出たんですけど、途中で迷ってしまってあの団子屋に辿り着いたんです」
「マジ?大江戸スーパーって場所的にあの団子屋と真反対だけど」
「そうなんですか!?」
どうやらわたしは初めから地図を読み間違えていたらしい。
「そんじゃ、目当ての大江戸スーパー寄ってくか」
「ありがとうございます。お願いします」
わたしたちは後ろで何か言っているマダオさんと一方的にお別れして、大江戸スーパーへと向かった。銀さん曰く、この公園からほど近いところに大江戸スーパーがあるらしい。
銀さんに連れられて大江戸スーパーへ足を運ぶと、そこには見たこともないような食材が豊富に揃えられていて、わたしはついついはしゃいでしまった。
「銀さん、スーパーマーケットってすごいんですね。こんなにたくさんのものを売っているだなんて」
「…お前世間知らずにも程があるだろ。左手の薬指見る限りだと人妻だろ?そんなんでよく結婚できたな」
「仰る通りです…実は主人とはお見合い結婚なんです。屋敷には使用人の方がいらっしゃいますし、基本的に家事炊事は任せっきりなんです」
「家事炊事は任せっきりなら、わざわざ菫ちゃんがスーパー寄る必要もねえんじゃねえか?」
「でも、どうしても主人に手料理を食べて欲しくって…仕事が忙しい人なので、家に帰った時くらいはゆっくりして欲しいんです」
健気だねェと銀さんは呟いた。
確かにこんなことしても報われないかもしれない。けど、わたしがやりたいのだ。彼との初めての会話の糸口がそれだったから。
わたしはカートいっぱいに食材を買い込むと、銀さんに教えて貰いながらお金を支払った。その後銀さんには袋詰めまでお手伝いして頂いた。
「重てぇだろ。荷物持つぜ」
「でも…」
「お前こんなに持てねえだろ。無理すんな。重い方貸してみろ」
思った以上に買い込んだため、一人で持ち帰る自信がなかったわたしは、銀さんに荷物を持ってもらうことにした。
「今日は色々とありがとうございました。本当に楽しかったです」
「いーって、どうせ暇だしよ」
「そういえば、万事屋には銀さん以外の従業員さんはいらっしゃるんですか?」
ふと疑問に思ったわたしは、隣を歩く銀さんにそう聞いた。
「メガネのガキ一人と夜兎族のじゃじゃ馬が一人、それとデケェ犬が一匹いる」
「随分賑やかそうですね」
「賑やかすぎて困ってるっつーの。うるせえったらありゃしねえ」
銀さんはそう言うが、愛おしい家族のことを話すような、柔らかい表情をしていた。きっと銀さんにとって万事屋というのはすごく大切な場所なんだろうということが一瞬で分かった。
「地図見た限りだと、菫ちゃんの家ここだよな…?ってマジでデカいとこ住んでんな…」
「そうでしょうか?」
「いやだってこの辺、高級住宅地だろ?…さすがは良いとこのお嬢さんって感じだな。旦那も高給取りなんだろ?」
「そう…なんですかね?仕事の話はしない人なので何とも…」
「そうかい。とりあえず俺ァそろそろズラかるわ。あんま屋敷の前で長居してっと不倫だと思われちまうからな」
「ふふ、そうですね。今日は本当にありがとうございました。また後日、万事屋にお礼に伺いますね」
「おー、手土産は饅頭でいいぞ。餡子たっぷりのやつな」
そう言うと、銀さんは右手をブラブラと振って帰って行った。
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