第3話 出会い
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出会い
あれは夢だったのだろうか、と思う。
祝言を挙げたあの日、ここには帰らないと言っていた彼が、真夜中に突然現れた。
祝言の日から何の言葉も交わしていなかったわたし達夫婦は、ようやくそれらしい会話をしたのだ。
なんとなく、あの時の土方様は柔らかい表情をなさっていた気がする。
いや…きっと都合のいい夢に決まっている。だってあんなに冷たい目をしていたあの人が…
しかし夢だと思っていたそれは、玄関先に置いたおにぎりと彼の好物がなくなっていたことで、これが夢ではなかったということを思い知らされた。
それに土方様はわたしの作った手料理を食べてくださるとも仰ってくれた。
「そうと決まれば、早速お料理の勉強をしなくっちゃ!」
今日は土曜日にあたるのでほとんどの使用人は休みを取っている。
出勤してきた使用人に大江戸スーパーの場所を聞いたわたしは着替えを済ませ、大江戸スーパーを目指して屋敷を後にした
ところまではよかった。
「えーっと…ここはどこでしたっけ…」
地図も貰ったし、使用人の方に場所も教えて貰った。屋敷を出て随分と歩いたことも分かっているが、どうやら道に迷ってしまったようだ。
困り果てたわたしはターミナルを目指して歩くことにした。ターミナルに近づけば、スーパーでなくても八百屋の一件や二件はあるかもしれない。
ターミナルを目指して歩いていると、鼻腔を擽るいい匂いに気がついた。匂いのする方へ足を運ぶと、一件の団子屋にたどり着いた。匂いの元はこの団子屋のようだった。
「わあ…美味しそう…」
「ん?」
「え…あっ、すみません…!」
どうやらわたしは、見ず知らずのお客さんが食べていたみたらし団子に目を奪われた上に、声まで出してしまったらしい。
「お前ここの団子食ったことねえの?美味いぞ、ここの団子」
わたがしのようなフワフワの白い頭をした男の人が、わたしのことを不審がらずにそう教えてくれた。
「いらっしゃいませ、よかったらうちの団子食べていきませんか?」
今朝のことで舞い上がっていたわたしは、今頃朝ごはんを食べ損ねたことに気がついた。
「…それじゃあ、みたらし2本戴きます」
「じゃあ、ちょっと待っててね」
わたしがそう言うと、素敵な笑顔が印象的な女将さんは、店の奥に入って行った。わたしは、先程ここの団子をお勧めしてくれた白いお侍さんが手招きしていたので、その隣に腰掛けた。
恐らくここは江戸の外れだろう。人通りはそこそこだが、ターミナルからは離れているし、天人も見かけない。
ここならば、ゆったり外の腰掛け場で団子を頬張ることができそうだ。
するとお侍さんが口を開いた。
「あんた見ねえ顔だな。江戸の女か?」
「はい。生まれも育ちも江戸ですが、実は一人で町を歩いたことがないもので…」
「…良いとこのお嬢さんってやつか」
「えっと…世間一般的にはそうなのかもしれませんね」
「生まれも育ちも江戸だってのに江戸のこと知らねえなんざ、損ってもんだぜ」
確かにそうだ。わたしは一人で出歩くことは許されていなかった。生まれ故郷であるはずの江戸をほとんど知らない。一人でスーパーマーケットにすら行けない成人女なんているのだろうか。
その事実に俯いていると、店から女将さんが現れ、二本頼んだはずの団子が三本になっていた。
「はい、お団子お待ちどうさま。一本はサービスね」
また素敵な笑顔でわたしに微笑んでくれた女将さんはとても綺麗な人だった。
「そうだ銀さん、このお嬢さんに江戸を案内してあげたら?江戸にはこんな場所があるんだぞって教えてあげればいいんじゃない?時間はあるんでしょ?」
女将さんはその銀さん?という人に向かってそう提案した。銀さんと呼ばれた白いお侍さんは、最後の一本を平らげると、しゃーねーなと言い、立ち上がった。
「楓ちゃんがそう言うなら、ちょっくら案内してやるか」
「え、でもご迷惑じゃ…」
「大丈夫ですよ。銀さんは万事屋さんだから」
「そうそう、万事屋っつーなんでも屋やってっから、困ったらいつでも来な。金は発生するが、あんた美人だから安くしとくぜ?」
そう言うと、彼は一枚の名刺を懐から取り出した。
あっ、でも実家が金持ちならやっぱ貰っとこうかな…という発言が聞こえたような気がしたが、悪い人ではないように見える。
「坂田…さん」
貰った名刺をみてそう呟くと、坂田さんは気持ちわりィから銀さんでいいぞ、と言ってくれたので、親しみも込めて銀さんと呼ぶことにした。
わたしも団子を平らげると、女将さんである楓さんにお礼を言い、銀さんと共に江戸の町に繰り出した。
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