片思い
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土方様が顔を見せなくなって二週間が経った。
店長さん曰く、店には顔を出しているそうだ。
それなのにわたしの元へ顔を見せなくなったのは、そういうことなんだろう。
これでよかったはずなのに、心のもやもやは晴れないままだった。
最近では他のお客様にも心配されたり、仕事中も失敗をすることが多くなった。
土方様とギクシャクし始めてから、何もかも上手くいかない。
「今日はもういいから帰りなさい」
見かねた店長さんが、わたしに家に帰るように言った。
時間は日付を回ったところで、夜道をとぼとぼと歩いて帰る。
土方様に会いたい。会って話がしたい。
でも会えない。
恋するだけ辛い、か…確かにその通りだった。
沖田様に言われてから、相手の女性のことも考えるようになった。
自分の愛する人が、こんな姿のキャバクラの嬢と仲良さげにしているだなんて、自分だったら耐えられない。
『自分に自信を持て』
『お前のことをきちんと見てくれるやつは絶対にいる』
土方様に言われた言葉も、今の自分には過ぎたものだ。自分に自信なんて持てるわけがない。わたしのことを見てくれる人なんてどこにも…
そう考えていると、何やら家の近くの路地裏から人が揉み合っている声がする。
「やめろ!離せ!」
「!?」
この声は…間違いない、弟の声だ。
弟が誰かに襲われている。弟の緊迫した声に導かれるように、わたしは咄嗟に路地裏へと足を踏み入れた。
「わたしの弟に何をしてるんですか!」
「…!?姉上…!どうして…!」
「ん?姉だと?」
見知らぬ男の声。気配から察するに男は二人組のようだ。
「おう、お前コイツの姉ちゃんか。聞いてくれよ、こいつに昨日の昼間、着物汚されてよ?謝罪ついでに弁償してもらおうと思ってよ〜」
「…着物を…?」
「きちんと謝っただろう!どうしてこんな夜更けに…!それに家の場所まで…!」
「俺たちにかかれば、家の場所を調べることなんざ大した話じゃねえさ。昨日このボクに着物を汚されたまんま賭場に行ったら、大負けしちまってよォ?財布の中身がスッカラカンってわけよ?きっと着物汚れたまんま行ったから負けたんだよ。なあ姉ちゃん?金、払ってくれるよなァ?」
「…ッ」
言っていることがめちゃくちゃすぎる。しかし、すぐ近くまで男が来ている気配がする。きっとこの手のチンピラはわたしたちが払えないような金を要求してくるに違いない。
「……着物のお金は必ず支払います。でも今は持ち合わせがないんです。本日のところはどうかお引取りを…」
「姉上だめだ!言うことを聞いちゃ…う゛っ…」
「お前は黙ってろ!俺たちは今この姉ちゃんと話してるんだ」
沈黙が流れる。わたしに詰め寄る男は一つため息をつくと、嬉々とした声色で分かったよと言った。
「だがなあ姉ちゃん…今支払えねえということは俺たちに借金してるってことになるよなあ?金を借りてるってこたァ、利子がつくってことだぜ?その利子は今払ってもらわなきゃ困るなあ?…だが金がねえ貧乏な姉弟に免じて、特別措置を取ってやろう」
男はそう言うと、わたしに詰め寄り、耳元で囁いた。
「払えねえ利子は体で払ってもらおうか」
「……え」
その一言で面食らった瞬間、目の前の男が後ろに回り込み、羽交い締めにしてきた。
「姉上!!!!う゛っ…」
「うるさい弟くんには少し黙ってもらおうかな」
どうやら弟を羽交い締めにしていた男が、弟を気絶させてしまったようだ。
「やめて…!利子もつけてきちんと返します…!だから離して…!」
パンッ!
左頬に鋭い痛みが走った。どうやら弟を羽交い締めにしていた方の男に殴られたようだ。
「うるせえ女だな…!いいからこっち来い!」
「いや…!やめて!!」
ザシュッ
突然何が切れる音と共に、男の叫び声がした。それと同時にわたしを羽交い締めにしていた男の拘束が解けた。
突然解かれた拘束によろけたわたしを後ろから抱き抱える別の男の腕。その時ふと嗅ぎなれた煙草の匂いが鼻を掠めた。
「テメェら…この女に何してやがる…」
恐ろしい程の声色。聞き慣れたはずの声なのに、別人のように聞こえる。
「し、真選組の…土方!?なぜ貴様がこのような所に…!」
「質問に答えやがれ…今すぐ答えねェとテメェもぶった斬る…!」
「ひ…」
切られていない方の男は、今にも人を殺しそうな声を発する鬼に恐れ慄いたのか、仲間を置き去りにし、即座に逃げ出した。
「…逃げたか。まあいい、ここで伸びてる野郎に聞きゃいいことだ」
その言葉を最後にわたしの意識はプツンと途切れた。
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