孤独だった僕ら
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私は戦争孤児だった。攘夷戦争で父を亡くし、病気がちだった母も後を追うように亡くなった。
私は弱冠十歳にして天涯孤独の身になった。大好きだった家族を失った悲しみは大きかった。
そんな時、通っていた松下村塾で先生が言ってくれた。
"貴方は決して一人ではありません"
あの言葉がなかったら、今頃私はどうなっていたんだろう。
孤独だった僕ら
「え…戦争に行く?」
「ああ」
あれから数年後。一人前とまではいかないが、あの頃よりはきっと成長しただろう。
この数年間で様々なことが起きた。中でも先生が幕府に拘束され、松下村塾がなくなったことは私にとっても、仲間達にとっても衝撃的な出来事だった。
十余年続いたこの攘夷戦争が、幕府側の勝利で終わりを告げそうな時、仲間の一人で恋人である晋助が戦争に参加すると言い出した。
「どうして…」
「俺だけじゃねえ。銀時やヅラ、他の男連中も一緒だ」
「勝敗がほぼ決まっている戦争なんかに行くっていうの…!?」
銀時たちが先生を助けたいという気持ちを持っていたのは知ってる。それは私だって同じだ。
しかし、家族とも言える仲間が戦争に行くということは、少なからず犠牲が出るということを意味していた。戦争に参加して犠牲が出ないはずはない。大なり小なり怪我をしたり、最悪の場合は命を落とすことだってある。
確かに銀時、小太郎、晋助を筆頭に、うちの松下村塾の男連中は腕利きばかりだけど…それでも無傷で帰るなんてことは不可能だ。
ましてや戦況が悪いこんな状況で。先生だって生きているかも分からないのに。
「ねえ…考え直してよ…そんなの…素直に送り出すなんてできないわよ」
私は戦争が嫌いだった。実の家族を戦争で失い、今まさに大切な家族同然の仲間を再び失おうとしている。
「お前の気持ちは分かる。だがもう決まったことだ」
「そんな…戦うことがそんなに大事なこと…?自分の命を懸けるくらい大切なことなの?」
曇り空の下、晋助は私に背を向けて立っている。その背からは有無を言わせない気迫のようなものが漂っていた。
「楓、俺達ァ戦争しに行くことが目的じゃねえ。先生を助けに行くんだ。だがそのためには戦わなきゃならねえ。分かるよな」
「そんなの分かってる…!分かってるけど…!もっと他に先生を助ける方法が…」
「そんなのねェってことくらい、今のお前なら分かんだろ」
「……ッ」
何も返せなかった。晋助の言っていることは正しい。先生は幕府に拘束されたんだ。松陽の弟子と名乗る一介の人間が、話し合いで先生を助けられるはずがない。
分かってた。先生を助ける方法は戦いに出るしかないってことは。
「それでも…私は失いたくない…大切な仲間を…家族を…貴方を…」
あの頃の苦しみは二度と味わいたくない。その苦しみが再び襲いかかってくると思うと、涙を堪えずにはいられなかった。
すると私に背を向けていた晋助は振り返り、私の方へと近づいた。
「楓、こっちを見ろ」
「……」
「オイ、聞いてんのか」
「……」
黙りを決め込み、自分を無視し続ける私のことが気に入らなかったのか、俯く私の表情を読み取るように顎に手をかけ、顔を上げさせた。
「こっち見ろっつったのが聞こえなかったか?」
「……なに…」
目の照準を晋助に合わせると、見たこともないような晋助の真剣な眼差しとかち合った。
「楓、俺は必ず帰る。無傷でとはいかねえが、仲間と先生連れて必ず帰る。だから笑って待ってろ」
「晋助…」
晋助の目を見て悟ってしまった。彼は私が何を言おうと戦争に行くだろう。
だがそれと同時に、晋助は必ず生きて帰ってくるとも確信した。目は口ほどに物を言うとは正にこのことかもしれない。
「必ず…必ず帰ってきてよ…?みんなで一緒に…私待ってるから…」
「ああ」
晋助は私の表情を確認すると、両腕を私の背に回し抱きしめた。
「オメェも死ぬんじゃねェぞ、何があっても生きろ。今ここで約束しろ」
晋助の温もりを感じた私は、その温もりを返すように自分の腕を晋助の背に回した。
「私は死なないよ。遺される苦しみを知ってるから」
そんなやり取りの数日後、腕利きの三人を筆頭に、男連中は戦場へと向かった。
あれが晋助との恋人同士としての最後の会話だった。
→
1/5ページ