すきなひと
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あなたはみんなのもの。そんなことわかってた。
すきなひと
「よお楓ちゃん、団子十本ちょーだい」
「あら銀さんいらっしゃい!今日は随分と多めに頼むのね?ツケはもう勘弁だよ?」
「大丈夫だって!今日は臨時収入あったからさ」
この人、江戸はかぶき町で知らない人はいない万事屋銀ちゃんの社長、坂田銀時さん。
わたしが細々と営む団子屋に足繁く通ってくださる常連様。
銀さんはいつも、ここの団子は美味しいといって褒めてくださる。…調子に乗ってツケ払いも多いけれど。
わたしは焼きたての団子十本をタレに漬け込み皿に乗せ、湯のみとおしぼりと一緒に銀さんに提供した。辺りにはみたらしのいい香りが漂っている。
「臨時収入ってなに?…まさかギャンブル?」
「今日はちげーって!真面目に屋根の修理して貰った金だっつーの!」
「それならいいけど…あっ、新八くんや神楽ちゃんにはお給料出したの?二人ともいつも頑張ってるんだから、そういうところはきちんとしないと」
「…いやまあそうなんだけどね…?家賃も溜まってるしィ…?それはまたおいおい……まあでもこの残った団子アイツらに持って帰るし…それでとりあえずはだな…」
またこの人は…とため息が出る。本当に新八くんと神楽ちゃんは大変だと思う。
でもわたしは知っている。
この坂田銀時という男が、本当は心優しくて頼りがいのある人だということを。長い間顔を見せないと思ったら、所々見慣れない傷跡を作って突然フラっとやって来ることもあった。
かぶき町が、仲間が危険に晒されると、真っ先に立ち上がるのはこの人だった。彼はかぶき町の英雄と言っても過言ではない人なのだ。
そんな彼にわたしはいつの頃からか淡い恋心を抱いていた。恋愛は人並みには経験してきたが、何せ彼はあの坂田銀時だ。色々な意味でわたしとは住んでいる世界が違う。
本人は気がついていないが、彼はすごくモテる。この団子屋にも彼が来店し始めてから女性のお客様がうんと増えた。聞いたところによると、銀さんのファンだとかいう女性がすごく多かったのを覚えている。
普段は超がつくほどちゃらんぽらんな癖に、たまに見せる男らしさと真剣な眼差し、加えて優しい微笑みに…と色々なことが重なり合い、気がついたら彼に心奪われていた。
それに比べてわたしはどうだ。容姿は地味だし、スタイルも普通と言うしかないレベル。性格だってその辺にゴロゴロいるような世話焼きタイプ。釣り合いが取れるところといえば年齢と稼ぎ…といったところか。本当にわたしはどこにでもいるような平凡な団子屋の女店主だ。
そこそこ長くかぶき町に住んでいるせいで、彼のことをたくさん知ってしまったことがわたしの敗因だった。
「あ〜今日も美味かったぜ!楓ちゃん、ご馳走さん。残った団子アイツらに持って帰るわ」
"ご馳走さん"…彼がいつも帰る時のお約束のセリフ。幸せな時間はあっという間に終わってしまう。
「…新八くんと神楽ちゃんによろしくね。ありがとうございました」
「おう、じゃあな」
そう言うと彼は残りの団子を懐にしまい込み、店をあとにした。
「あ、そうだ」
「?」
背を向けて歩き出した彼は突然振り返り、わたしの方へと戻ってきた。わたしが不思議そうに首を傾げていると、
「言い忘れてたわ」
と一言。すると彼はわたしの耳元へと口を寄せ、また来てやっからいい子にして待ってろと呟いた。
そうしてわたしに優しい微笑みを見せたかと思うと、そのまま背を向けて手を振りながら帰っていった。
人気者の彼とわたしとじゃ、釣り合いなんて取れたもんじゃないってわかってるのに。
それでもどこか期待してしまうのは、彼の思わせぶりな態度なのか、それとも惚れた弱みというやつなのか。
わたしは彼が見えなくなるまで、その広い背中を見つめていた。
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