その手に掴み取れば

「…蒙恬くん?」
「久しぶりだね」
「…どうして?」
「なんか、上手い事逃げて来ちゃった」
上手い事。その中に一体どれほどの苦労があったのかはわからないが、蒙恬くんのことだから大きなはずのそれを軽く言っているのだろうな、と思った。
「一緒に逃げよう。二人で暮らせるところまで。子供達はもう立派に育ったから、大丈夫」
「えぇ…貴方となら、私、どこまでも行けるわ」
固く手を握り、部屋を出るために一歩踏み出した。

〜〜〜

「小夜ちゃん…元気にしてるかなぁ」
僕は独り言を漏らしつつ、咲いていた彼岸花を眺めた。帰ろうかとも思ったけれど、小夜ちゃんまで危険に及ぼすかもしれないと思うとそれはできなかった。
僕のことなんて忘れて、幸せに暮らして欲しい。
世間的には「死んだ事」になっている僕の最後の願いはそれだった。
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