記憶のすみか
ある日、大切な話をしたいと言われて私は言われた通りカフェのテラス席にやって来た。それから間も無く太子丹様が現れる。私達は席についた。
「好きに注文してくれ」
「え、奢りですか?」
「まぁな」
「えっと、それじゃあ…」
初めてやってくるお洒落な雰囲気のお店で、何を頼めば良いのかわからない。迷ったけれど、私は特に気になったミルクセーキとプチパンケーキを頼んだ。
「すごい値段ですね」
「安い店で長話をするのは気まずいだろう」
「それで、何のお話ですか?」
「単刀直入に聞く。琉宵は小夜を覚えているか」
「えっと…聞き覚えはある気がするんですが…」
「この前、すれ違った黄色いブレスレットを付けた女性。彼女が小夜だ」
「え…」
「実はあの時気づいていたんだが、琉宵や小夜が覚えていなそうだったからはぐらかした」
「…つまり、太子丹様は私より記憶があるという事ですか?」
「そういう事だ。それもそうなのだろう…私のした事は消えない。だから罰として、こうして多くの記憶を残されているのだと思う。琉宵や小夜のように忘れる事を許されていないのだ」
私は少し黙った後、首を振りながら静かに口を開いた。
「罰だけではありません」
「しかし私のせいで多くの人が犠牲になったのは事実だろう」
「確かに、太子丹様がなさった事は非常に重大な事でした。ですが…」
一息ついてその言葉を口にする。
「太子丹様が覚えている事は、悪い事だけですか?」
「…!それは…」
「きっと小夜殿は優しい人だったのだと、私のわずかな記憶が告げています。太子丹様はその小夜殿の優しさに触れた事も覚えているのではないですか?」
「…幼い頃、一度だけ小夜と会った。その場には琉宵もいた。小夜は庭の魚に餌をやっていた」
「それと…美陽殿の事。彼女の事は小夜殿よりは覚えていますが、やはり私は完全には覚えていません」
「そうだな、美陽は…明るくて、小夜が国を去ったのちも1人で王宮にやってきて催しを盛り上げてくれた」
「そんなことも…あった気がします。だから太子丹様、かつての記憶の存在を罰だと思わないでください」
「琉宵も変わらないな」
「…そうでしょうか?」
「そう言えば、私達の最期の日を覚えているか」
「ええ。その事なら、はっきりと」
「あの時、私は言いかけてやめた言葉があっただろう」
「…はい」
「わかっていたかもしれないが…私は昔からずっと、気遣い上手な琉宵に感謝している。そして…愛している」
それは、今世になってようやく聞けた言葉だった。
「…ずるいですよ。私だって…愛しています」
暖かい涙が溢れていく。
「琉宵…今度こそ、2人で幸せになろう」
庭に咲く彼岸花は白色だった。
「好きに注文してくれ」
「え、奢りですか?」
「まぁな」
「えっと、それじゃあ…」
初めてやってくるお洒落な雰囲気のお店で、何を頼めば良いのかわからない。迷ったけれど、私は特に気になったミルクセーキとプチパンケーキを頼んだ。
「すごい値段ですね」
「安い店で長話をするのは気まずいだろう」
「それで、何のお話ですか?」
「単刀直入に聞く。琉宵は小夜を覚えているか」
「えっと…聞き覚えはある気がするんですが…」
「この前、すれ違った黄色いブレスレットを付けた女性。彼女が小夜だ」
「え…」
「実はあの時気づいていたんだが、琉宵や小夜が覚えていなそうだったからはぐらかした」
「…つまり、太子丹様は私より記憶があるという事ですか?」
「そういう事だ。それもそうなのだろう…私のした事は消えない。だから罰として、こうして多くの記憶を残されているのだと思う。琉宵や小夜のように忘れる事を許されていないのだ」
私は少し黙った後、首を振りながら静かに口を開いた。
「罰だけではありません」
「しかし私のせいで多くの人が犠牲になったのは事実だろう」
「確かに、太子丹様がなさった事は非常に重大な事でした。ですが…」
一息ついてその言葉を口にする。
「太子丹様が覚えている事は、悪い事だけですか?」
「…!それは…」
「きっと小夜殿は優しい人だったのだと、私のわずかな記憶が告げています。太子丹様はその小夜殿の優しさに触れた事も覚えているのではないですか?」
「…幼い頃、一度だけ小夜と会った。その場には琉宵もいた。小夜は庭の魚に餌をやっていた」
「それと…美陽殿の事。彼女の事は小夜殿よりは覚えていますが、やはり私は完全には覚えていません」
「そうだな、美陽は…明るくて、小夜が国を去ったのちも1人で王宮にやってきて催しを盛り上げてくれた」
「そんなことも…あった気がします。だから太子丹様、かつての記憶の存在を罰だと思わないでください」
「琉宵も変わらないな」
「…そうでしょうか?」
「そう言えば、私達の最期の日を覚えているか」
「ええ。その事なら、はっきりと」
「あの時、私は言いかけてやめた言葉があっただろう」
「…はい」
「わかっていたかもしれないが…私は昔からずっと、気遣い上手な琉宵に感謝している。そして…愛している」
それは、今世になってようやく聞けた言葉だった。
「…ずるいですよ。私だって…愛しています」
暖かい涙が溢れていく。
「琉宵…今度こそ、2人で幸せになろう」
庭に咲く彼岸花は白色だった。