斜陽の行末

遼東に逃れて身を隠す日々の中、ある物が太子丹様の元に届けられた。
「…剣、ですか」
私は静かに呟いた。即ち、これを使って自害せよという意味である。
本来王族に用いられる毒ではなく剣。余程王様の怒りが大きいというのが伝わって来る。
「私は…とんでもない事をしてしまったのだな…」
確かに王様に無断で暗殺計画を立てるなど、匹夫の雄と言われても仕方がない。しかし私はそれだけではないと信じていた。
「確かに太子丹様がなさったことは国に関わる重大な事です。ですが、決して間違いだったのではありません。この国も太子丹様も、追い詰められていたのですから…」
私はそう告げるうちに涙が溢れて来た。
「泣かないでくれ、琉宵の泣き顔は見たくない」
「太子丹様…」
「これを渡された以上、抵抗したところで私は殺される。そうなるくらいならば…潔く果てる」
「…私もお供をいたします」
覚悟はとうに出来ている。
「本当は琉宵を巻き込みたくはなかった…全ては私の責任だ」
心なしか、太子丹様はこの逃避行の中で成長されたのではないか、と思う。
もう少し早ければ、あの無謀とも言える暗殺計画を止める未来もあったかもしれない。
私達は向き合ってその場で姿勢を正した。
「琉宵…そなただけが、最後まで共に居てくれたな」
私は国を落ち延びたという美陽殿の事を思い出した。それと、美陽殿の幼馴染である小夜殿はどうしているのだろう。
お互い幼かった頃に一度会っただけなので彼女は私の事を覚えていないかもしれない。
…2人とも無事だろうか。
それだけがやや心残りだが、彼女達はきっとこんな世の中でもしなやかに生き延びてくれると信じた。
「…ふふ」
「どうなさったのです?」
「美陽の事を思い出していたのか」
「…よく分かりましたね」
「心配せずとも、彼女なら大丈夫だ。それと幼馴染である小夜も、きっとどこかで幸せに暮らしているだろう」
太子丹様はやや顔を上げて、
「私は琉宵のそういう気遣い上手なところが、昔から…」
そう言いかけて
「いや、こんな時に良くないな。あの世で話そうか」
と途中で止めた。
「もう、勿体ぶらないで下さいな。それでは…参りましょうか」
「ああ」
太子丹様は剣を手に取ると、躊躇う事なく首筋を掻き切り、倒れ伏した。
「私も…今、参りますね」
赤くなったその剣を持ち、胸元に突き刺す。
暗くなっていく視界の中で、黄色い彼岸花を見た気がした。
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