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Wild Eyes Eternal Blaze

冷たい風が、飛影の肩を撫でて行った。

…冬が近いな。
ふと思って、飛影は布団を引き上げた。




魔界の夜は、寒い。
…季節の変化は激しくないとは言え、冬に近い時期は存在する。
飛影が住んでいるこの小屋にも、冷たい風は入り込んでくる。




「…ん…」
そばで、小さな声がした。
「……。」
飛影は、自分の直ぐ下で丸くなって眠る小鳥を見詰めた。
自分はこんな寒い風など平気だが、こいつには…初めての
ものなのだ。



傷ついた小鳥。
その羽を、飛影は撫でる。
「…蔵馬…」
起きているのか?

思って飛影はその肩を撫でた。無意識のうちに、
飛影はそっと触れていた。
飛影の傍には、白い着物を少し乱して眠っている小鳥。
安らかな寝息に、ほっとする。…小鳥のような人。




うなされたかと思った。
ちゃんと、眠っているんだな。

長いまつげが時折ぴくんと動いて、その小鳥が生きている
ことをリアルにする。
蔵馬の長い髪がベッドの中で舞っている。
眠りの中でわずかに乱れた白い着物は、蔵馬を女のように
見せた。
華奢な体に纏い付いている白の着物。…飛影は息を呑んだ。



初めて会った時もこうだった。
どこか現実味の無い存在。
この白い着衣が、蔵馬を幻想的に見せて、また…消えそう
に見せていた。

ひく、と蔵馬ののどが震える。
苦しげに眉を顰めて、そして睫が揺れた。
喉にあるあの黒い跡に、飛影は嫌な記憶を呼び起こされて、
蔵馬から視線をそらす。


・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥


それはきっと、この小鳥にとっても嫌な記憶。
何の夢を見ているのか、知りたい…知りたくない。
…蔵馬を、起こしたくない…
「…っ…ぇい…」
頼るものを失ったように小さく、消えそうに呼ぶ名に、
飛影はひやりとした。
「…大丈夫だ」
飛影が耳元で囁いてやると、蔵馬はもう一度喉を震わせた。



 蔵馬を腕にしながら、出会った時の事を思い出して見る。

・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥




  ---魔界の中でも奥にあると言う、北の屋敷。
  何ヶ月も前から目をつけていたそこに盗みに入った時だった。


  厳重に幾重にも重ねられている壁があった。
  それは、きっと飛影でなくとも興味を惹かれる場所であった
  はずだ。


  黄泉の屋敷の中。
  全く人の気配の無い場所。

  屋敷の奥にある、秘められた庭園、その噂は遠い街にも
  聞こえていた。

  ザッ。
  飛影が壁をくぐって入ると、今度はむせ返るような甘い香りが
  立ち込めた。
  アイリスローズ。
  甘い香りを放ち、そこにいる人を夢心地にするという花だ。


  悪趣味なやつ。
  見渡せば、果てが見えないとさえ思えるほどの、ピンクの
湖の中に
  いる感覚。
  飛影は黙って進んでみた。

  やがて、その奥に、あるものをみつけた。
  僅か。消えそうなほど頼りない…だが確かな、人の気配。


  井戸だった。


  初めに目に入ったのは井戸だった。 
  大理石のような輝く石で作られた井戸だった。
  その端に見えるものに物騒な感じがして、飛影は近づいた。

  井戸の端には、鎖がくくりつけられていた。
  そうしてその太い鎖は、傍にあるそれに繋がっていた…。



  蔵馬との、出会いだった。
  狂いそうなバラの香りの中、蔵馬は首から繋がる鎖で、
井戸の近くに、力なく倒れこんでいた。

    
  「---…」
  ふと、風が飛影のマントを揺らした。
  その音に反応して、蔵馬が顔を上げた。

  飛影は、全てを忘れたかのようにその瞬間目を見開いた。
  そいつの肩は、赤い傷が幾つも存在した。
  そしてその首には太い、鈍い光を放つ鎖。

  白い着物から覗ける胸元には、青痣が見え隠れする。
  血色を失ったような、人形のような不気味な白い顔。



  「…だ、れ…」
  口を、開いた。
  飛影は瞬時に全てを悟った。
  こいつは、光を失っていたのか。
  光を奪われたのか。
  この庭園で飼われている…、あの、黄泉と言うやつによって。
  チラリと、飛影の目に白い足が飛び込んできた。
  細いしなやかな足には、切り傷があった。



  「……」
  言葉を失っていたのは、飛影のほうだった。

  奥底から、小さな声。
  …俺が、探していたもの。



  この城の、宝。

  であって、しまった。
  ---出会ったのだ。



  ---バアン!


  次の瞬間、派手な爆音が響き、鎖が割れた。
  グイ、と飛影はそいつの手を握って抱えあげた。


  そこからは、血路と混乱の始まりだった。

*――゚+.――゚+.――゚+.――゚+.――*――゚+.――゚+.





「…ひぇい…」

蔵馬が、飛影を探してさまよう。
あの屋敷での記憶は、あそこを出て間もない蔵馬をまだ苦しめる。

光を失った蔵馬は、一度悪夢を見るとそこからは自力で
抜け出せない。

黄泉によって失った光は、戻ることはきっと無い。

だから。
それなら。



暖かなものを感じてか、
蔵馬は僅かに力を抜いた。



「いるの…?」
自分では飛影の姿を掴むことは出来ない。
おずおずと手を伸ばす。堪らず、飛影は蔵馬を抱きしめた。


「…ここに、いる」
あの屋敷を攻撃して。財宝と、一番の宝…蔵馬を奪ってから
数日。


また、何かが起きる。
きっと、黄泉は自分を追ってくる。

だが。もう、手放せない。そして。

決めたことがある。

俺がお前の光になってやる」
蔵馬が飛影を見詰めることは叶わなくてもいい、その姿を
見止めることは出来なくても、構わない。


その代わり…
自分はいつでも蔵馬を見詰める。



嵐が、いつか来る。

そんな、気がした。

---だが俺は。

「永遠に、お前の光だ」




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