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思いの行方

実は、初めて会ったときからどきどきしていたのだ。


幽助は、夜の道をただ歩いていた。
駅前から家までの道を、ゆっくりと。
何の目的があるわけでもなく。

母親の命を救いたいと告白してきた、少女のような面立ち。
時々、使命を口実に遊びに行った時に
怪我した時に丁寧に包帯を巻いてくれる心配そうな顔も、風に流される髪も、笑顔も。






星が小さく見えて、その中に浮かぶのは一人だけ‥。
「暗黒武術会かー」
あの不気味な大男トグロからの招待を受けて、なりゆきでここまで
きてしまったけれど、生きて残れる自信なんかなかった。


今日はその暗黒武術会の初日。

島へたどり着いた一行はそれぞれの個室で休息している
ところだった。

座り込んだ幽助は、ただ手を握りしめて、部屋を見渡した。
「生きて帰れるかな」
あの大男、戸愚呂とか言った。今まで人間とちょっとした喧嘩しか、
したことなかったが、本気で身体が動かなくなったのは
初めてだった。

遊びの喧嘩とは違う、意識しなくても自然と身体が
動かなくなった。
歩くことも出来ないなんていうのを経験したのは初めてだった。
一度巻き込まれたら絶対逃げられないーーそれを実感した。


すこしだけ、嬉しいこともあった。あの、初めて会った時から
忘れられなかった、
蔵馬と、ずっと一緒に居られるのだ。
蔵馬は、どうしているだろう。
広い部屋の中で幽助は天井を見上げたままだったのを起こして、
タバコに火をつける。




しなくてはいけないことはわかっていたけれど、それでも
頭を占めるのはそのひとばかり。





一方そのころ蔵馬は、同じように、与えられた広い部屋で
天井を見上げていた。

突然の戸愚呂からの、暗黒武術会への招待。逃げられはしなかった。
人間の味方をした付けは、もちろん何百年も妖怪をやってきた
自分がわかっていないわけはない。

遠く離れたこの島で、どんなあやしげなルールが作られるか
わからない、
油断は出来ない、と判っていた。
何をすべきか分かっている。今の自分は、妖狐だった頃とは違う。
莫大な妖気を、今取り戻せたら。思っても、仕方がないことだ。



だけど、蔵馬の心を占めて離さない人が他に居た。

こんなときでも、ついためいきをついてしまいそうな
気持ちにさせる人が、いた。

あの人は大丈夫だろうか。あの人はなにをしている、
何を考えている。船の上でも多くを語らず、それでも逃げは
しなかったひと。


飛影。
コエンマは、「お前たち二人は一緒に考えられている、下手なことをするとお互いに
影響する」と言ったけれど。
そんなに仲良くないんだよねと、呟いた。
偶然一緒に居るだけなのだ。

飛影は居ない。
部屋割りは一緒なのに…。

「捜し物か」
飛影が燃える瞳で探し続けているが手に入れば、それで終わりなのか。
彼は元の魔界の生き物に戻るのか。
この大会を、どう思っているの…。

船の中で自分をじろじろ見る輩が多かったことも気になる。

生死以外の危険性も持ち合わせた大会…。
「気をつけて…」
このまま止められなくなる気がして、膝を抱えた。
飛影の瞳が記憶に溢れている。

どんな不意打ちが有るかも分からないこの島で…。


交錯する夜を、月だけが見ていた。

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