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甘い翻弄、口づけの炎

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汗ばんだ蔵馬の手が、鳥に触れた。
「あ…」
抱きしめたい、そんな気持ちだった。
こんなに綺麗な、優しい羽の色。キラキラと光る緑の羽根。 抱きしめたかった。
この鳥が居れば…。
記憶の断片が、込み上げる。何度も共に崖を越えて何度も共に眠った鳥だった。


蔵馬は知っている。
この病を治すための赤い果実…。
魔界の奥にしか咲かない花の、小さな赤い果実。
もどかしさだけが蔵馬を支配していた今の、救いの手だった。
今の自分が魔界の奥まで果実を取りに行くことは出来ない、余りにも この身体は脆い。
青く光る鳥の目が、蔵馬を見た。
鳥がその窓を再び叩いたのは、数日後だった。
煌めく羽根の、その間から落ちた果実。
……これがあれば。
これがあれば。
それだけが、蔵馬の心を支配する言葉だった。
これが、救い。


ぎゅっと力を入れて、蔵馬は果実をすりつぶした。
それを湯に溶かし…魘される飛影を見つめた。

もどかしい。
こんな事態が起きてからしか、動けない自分が。

こんな時に自分の手で飛影を、自分の力だけで救えないことが。




無力さが蔵馬を襲い、そのまましゃがみ込んだ。


魔界は遠くてあの頃の姿に戻れてもいつまでもそれは保てない。


駆けて行くには遠い。

こんな偶然に出会った使い魔に頼るしかない。

力なく、蔵馬は手のひらを見た。
この手のひらに持てるだけの薬草、薬でしか飛影を救えない。
いつまで…飛影の役に立てる?
飛影は強くなるけれど病魔には勝てない、そんなとき…。


遠くに居て、何が出来る。

「飛影!」
目を開けた飛影を見て、蔵馬は弾んだ声を出した。
そして、何度も飛影の身体に触れた。
「どこもなんとも…ないね」
大丈夫だと、飛影は応えた。


……蔵馬の髪を撫でる手が、優しかった。

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