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甘い翻弄、口づけの炎

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数週間前のことだった。
ゴウゴウと、その日も風が荒れ吹いていた。
違うのは――そこか魔界ではないこと。
窓を叩くような風の音に蔵馬は立ち上がった。今夜はまさか来るとは、 だから閉めて
――その瞬間。 ガタンと、音がした。
蔵馬の部屋を揺さぶるような振動がして、何かが転がっていた。
ヌルヌルとした何かが、床濡らしていた。
「なにっ――」
ハッとしてそこを見つめた視界に入ったのは、その人だった。
「飛影!」
叫ぶような声が響いた。


くら、まと小さな声がした。

触れた飛影の身体がひどく熱かった。
飛影の瞳が蔵馬を映すことは、なかった。何度も蔵馬はその腕を拭いていた。


一体何枚のタオルを使っただろう。

「どうして…」
何故としか浮かばなかった。
小さな飛影の唇が、ただ蔵馬と呼び続けていた。
夜の空が。何度も二人を包んでいた。
「蔵馬……」
呟きの声がだけが、その部屋に響く声だった。
飛影の手を取り、何度が夜が過ぎた頃、蔵馬は小さく呟いたのだ。
「この、病気」
知っている。 知っている、これは疫病だ。
魔界では暫く見られなかった疫病。 細胞を殺し、身体を弱らせていく。
数ヶ月続くと思われるこの事態を、どうすればいい。


眠っていない頭で蔵馬は記憶を辿るしかなかった。
遠く、
遠く何度も賭けた魔界の地のことを辿っていく。
あれだけ何度も
見つめてきた世界のことだ。

どうにも出来ないはずがない。
必ず…何か方法があるはずだと、それだけが頭を駆け巡っていく。

ピチュ、と声がした。
「あっ…」
小さな、鳥だった。
窓を叩く小さな音。キラキラと光る小さな鳥…。
ピチュピチュと、鳥が囁いていた。
ガラッと窓を開けたその手に、鳥は頬を擦り付けていた。
「きみ、は」
知っている。蔵馬はこの鳥を知っている。
「いきて、いたんだ」
人間界に逃げ込む前につれていた、使い魔だった。はぐれたまま
消えたものだと 思っていた、鳥だった。
ピチュピチュと何度も鳥は蔵馬の手を撫でた。






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