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恋はきらめき、繋がるは 恋慕



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「わ!可愛い!」
雪像を見て上がった蔵馬の声は、はしゃいでいた。

蔵馬はこんな表情をしていただろうか
と思うほど、幼く。


瞳がころころと回っていく。
観光客が多いこの祭りは、雪像が隙間なく並んでいた。
あ、と飛影は歩を止めた。
「お前がいる」
狐の雪像。指さすと、蔵馬は頬を膨らませた。

「…動物扱いしないでよ」
言いながらも、蔵馬は飛影の手を引いた。
ふわりと毛の盛り上がりも再現された雪像は、蔵馬の瞳に映っていた。


「御写真、撮りましょうか」
スタッフが、そっと近づいた。
「えっ」
数秘の沈黙。飛影は黙っていた。
「撮りたいのか」
「…うん」
小さい頷きに、飛影は蔵馬と狐の雪像に近づいた。

それと…。


「あと、こいつだけの写真もだ」
はあい、とスタッフの声がした。


蔵馬だけの写真…絶対に、誰にも見せない。


「可愛かった」
上気した蔵馬の声が弾んでいて、飛影の喉を、甘さが
落ちていった。

悪くない。こういうお祭りなど、自分は興味がないと
思っていた。

でもこうして歩いているだけで、時折蔵馬の手を引いて
様々な形の人間界のものを見ているだけで、
満ちていくものが確かにあった。


賑わいの中はしゃぐ人間を見る度、不思議な生き物だと思った。

白い息を吐きながら笑いかける蔵馬と今が、好きだ。




魔界は広く冷たいエリアの方が多い。


けれどその中を、捜し物を、雪菜を見つけるために
ただ見ていた時間は余りにも長かった。


乾いた風と遠い空を見上げて想う。



蔵馬は、飛影の黒衣に頬を擦り寄せた。


「ありがとう……」
聞こえたのは、涙に濡れたような声だった。
「雪…嫌いでしょ」

雪は氷だ。
違う形の、寒さを連想させ飛影の中のすべてを掘り起こす。
パトロールのせいにはしたくない。

会えないくらい我慢出来るって思っていた。

でも、まわりの人間は皆冬に、はしゃぎ過ぎていた。

季節ごとにイベントがあることを…蔵馬が楽しそうにそれを見ていることを。


冬は人間たちのお祭りが増えていた。

街に出れば色々な張り紙が目に入った。

冬は人間たちのお祭りが増えていた。

街に出れば色々な張り紙が目に入った。

理性が押しとどめている感情が、少しずつ聞こえるように
なっていた。
どうしてそばに飛影が居ないの。


でも、仕方がない。

魔界に生きる飛影を好きになったのは、自分だ。…自分だ。

季節にも取り残されたような感覚と、理性がせめぎ合うだけの
時間が積み重なった。

飛影を縛り付けたくない。

飛影を奪いたい。




でも、この雪像の祭りに行きたいと言う力が沸かなかった。

飛影の中の、氷河と言う言葉を思い起こしたくない。


「…ごめ」
言いかけた言葉を、遮ったもの、飛影の人差し指だった。

唇に触れた人差し指。
「黙れ」
見開いた蔵馬の瞳が、まっすぐ飛影を見た。
蔵馬の唇が、冷たくなっていた。

蔵馬の後ろめたさが…罪悪感にも似た気持ちが…唇から伝わる。

氷…氷河でに関わるものを飛影の前で言葉に出して…ましてや
イベントに連れ出したことを、苦しく想っているのだろう。

雪菜のことを、飛影は想いだした。


知りたかったわけではない。

妹の存在を、妹の全てを知りたい、
そう言う親愛の情のような気持ちではなかった。

ただ、何もなかったから……。

生きる意味など、下らないセンチメンタルではなく、
純粋に、知りたかったから。


蔵馬にはそうは映らなかったのかもしれない。

それはそれで、もどかしさだったけれど。

雪、ただそれだけで、飛影の全てに思いを馳せる蔵馬が、
愛しかった。

違う。

今伝えたいのは……もっと、本当のことだった。

「俺は、雪は嫌いじゃない。…あの国がなかったら」

上唇に、飛影の舌がそっと重なっていた。


「お前に会えなかった」




冬の花火が、恋歌に乗って上がっていた。
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