恋はきらめき、繋がるは 恋慕
魔界で、それは見たことがないものだった。
「あ」
パトロールの中で、隣で声がした。
カサッと、立ち止まる音。
「どうした」
「なんだこれ」
問いかける声に、飛影も空を見た。
荒れた魔界の土に降りた、白い粒。
足元に所々見える白。…これは、雪だ。
「知らないのか」
そう言えば、パトロールの地域でまだ見たことはなかった。
初めて雪を見たのはいつだっただろう。
人間界だったかもしれない。
魔界は広い。
見たことのないもの、会ったことのないものがあっても
おかしくはない。
「なんだこれは、何かの前兆か」
言う相手に、飛影は笑いそうになった。
「そんな訳はない、雪だ」
「雪?話に聞いたことがある。あれか」
男は、片手を翳していた。
妖怪のくせに、新しいものが面白いらしい。
危険なものではないとわかると、素直だ。
雪…。
飛影の中に浮かぶのは2つ。
冷たい空気に震えるあのひとと…陰鬱な目をした女達のいる国。
思い出せば甘くなるもの…蔵馬と、
足を踏み入れたくもない地と。
「もう今日は終わりだ、戻るぞ、飛影」
男が、声をかけた。
その時、飛影の頭を占めたのはただ一つ…。
黒髪が、ゆっくりと飛影の心に浮かび上がっていた。
寒さに、今どうしているだろう。雪…。
そして、もう一つ、浮かんでいく、小さな言葉。
蔵馬の言葉。
「…がね、きれいなんだって」
遠回しなくせに、一緒に行きたがっているのは明白で。
でも、行こうとは言わない強がり、今思い出す。
「…だって」
蔵馬の言葉を…想いだし繰り返す。
もどかしく、呟いたのは飛影だった。
「なんだ?飛影、戻るぞ」
男の声が聞こえた。地に降り続ける雪粒を、飛影は見た。
風が、激しく吹きつけていた。
「おい、飛影!」
飛影は、地を蹴った。
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