Blue energy -being hidden- 嘆きの風
電車に乗る頃には、もう夕刻を過ぎていた。
海辺を走る電車の中で、蔵馬はコトコト頭を傾けていた。
「蔵馬」
囁くような声で、呼んでも蔵馬は目を開けなかった。
コトンコトンと、電車が走る音が響く。
窓からは、海辺の街が見えた。
遠くに帆船が見えた。
海辺の岩に登る少年が、何かを叫んでいた。
薄橙に染まった空が、蔵馬の白いシャツを照らした。
落ちそうになったぬいぐるみを、戻してやる。
イルカのぬいぐるみ…。
膝の上に載るほどの、蔵馬の両手を広げたくらいの
大きさのイルカのぬいぐるみ。
いつになく甘い気持ちは込み上げて、思わず買ってしまった。
イルカのぬいぐるみ。
「ん…」
蔵馬の肩は、電車が揺れる音に合わせて飛影の肩に触れた。
こうして隣に居ると、蔵馬のからだの小ささが分かる。
ふと、黒髪から甘い香りがした。
きつい甘さではない…ジャスミンのような香り。
知っている。
蔵馬がこうして誰かに触れさせることが出来るのは、
気を許す誰かの時だけだと。
自分の表情が、今はとても甘いものになっていることを、
自覚する。
好きなのだ…結局は。
イルカの頭を撫でてみる。
イルカの上に添えられた蔵馬の、手の上に。