Blue energy -being hidden- 嘆きの風
パシャパシャと、水音が弾けた。
小さな波が、たくしあげた蔵馬の足を弾けて濡らしていく。
蔵馬が海の水を弾けさせて笑っていた。
「濡れるぞ」
「だって」
蔵馬の足に着いた砂を見て眉をひそめたが、それでも
口の端が緩むのはやめられない。
屈託なく笑う蔵馬を見たのは、何ヶ月ぶりだろう。
パトロールが入った日に夏祭りの印をしていた
蔵馬のカレンダーを見ては、見ない振りをしていた。
こんなに煌めいた瞳をする蔵馬を、放っておいたことすら
信じられないくらいだ。
もっと、本当は時間を過ごしたい。
「見て、きれい!」
貝殻を見つけては手のひらでわっかを作ってそれを翳す。
金色とオレンジの間のような太陽が、蔵馬の白い指を照らした。
「冷たかった~」
「わっ…」
そっと重ねられた手。蔵馬の手のひらが氷のように冷たくて、
今度は飛影が声を上げた。
「あったか~~い!」
「お前な…冷たくなるぞって言ったじゃないか」
「きれいだったんだもん!」
言いつつも、好きにさせてやる。
こんなこと許してやるのはお前だけだと、口に出しそうになる。
「ほら、こうしろ」
雑貨屋で売っていた、小さな紐をとって飛影がふっと
妖気を通す…。
一瞬で開いた穴に、蔵馬が大きな声を上げた。
飛影が、水で貝殻を洗って穴を開けてくれたのだ。
その穴に紐を通す。
「似合う?」
首から見える小さな貝殻が、蔵馬の瞳と同じように
光っていた。
「似合うから作ったんだ」
小さく言うと、えへへと蔵馬は笑った。
「ここ、凄くおいしいって会社で聞いたんだ」
運ばれてきたスープパスタを突きながら、蔵馬は
楽しそうだった。
飛影は、お勧めと言うピラフを頼んだ。
何度か、蔵馬が作ったものを食べたことがある。
人間界のものは、蔵馬から学んだものが多い。
薄いピンクのランチョンマットに乗せられて
運ばれた料理を見て、おいしそうと蔵馬は呟いた。
「熱いけどおいしい!」
「そうだな…少し食べるか」
言って、蔵馬の答えを聞かずに分ける。
「ありがとう…綺麗なレストランあって良かったね」
「ああ。海も見えて良かったな」
海辺のレストランは、さすがに、混んでいた。
女性客がグループで写真を撮っていたが、
確かに綺麗な盛り付けがいい。
「こっちの料理も、いいな…最近は魔界も
こういう店が増えたが」
「でしょ?今度、行きたいお店もあるんだ!」
「わかった。今度また、来る」
「家の近くにもね、新しい食堂とか出来たんだよ」
「そうなのか。でも」
…言いかけた言葉を、飛影が思わず飲み込んだ。
「ん?」
口に運んだスプーンが、少し止まった。
「お前が作る料理よりおいしいもの…食べたことがないな」
…百足にも料理人がいるけど…。
「えっ…」
一気に飲み込んだスープに、蔵馬は舌の火傷をした。