夢幻 震える夜を溶かしてよ
「黙れ」
胸にその体の全てを受け止めて、口付けをした。
シャワーが、また少し温かくなった。
「ちゃんと、掴まっていろよ」
「えっ…?」
問うた瞬間、飛影は蔵馬を立ち上がらせた。
「はっ…あぁっ」
妙に艶めかしい、と飛影は思った。
立っている蔵馬の体は柔らかくて。
シャワーの音の中で、からだが力をなくしかけている。
意地悪をすることが好き、と言う性分ではないのだが、
もう少し、観ていたい。
もっと感じたい。
長い黒髪が濡れて、滴るものがきらきらと見えた。
体ごと全てをぶつけたい衝動に駆られながら、それでも
飛影はそれなりに我慢をした。
――絶頂を迎えたら、終わってしまう、と言う想いと、もっと
はっきりと感じさせてやりたい気持ちと。
タイルに寄りかかるように立っている蔵馬は頼りなくて、
小さく見えた。
戸惑う瞳とぶつかる。
どくん。
体の奥が思わず反応して、自分が囁く。
――もっと、欲しい。
鳴かせたい。泣かせたい。
この腕の中だけで鳴かせたい。
ぐい、っといきなり抱き込んでみる。
腕に綺麗に収まる蔵馬の、中心が、飛影の中心に触れた、一瞬。
「--!」
漏れそうな声を堪えたのがわかる。
唇を噛み締めて、また唾液が伝った。
声には出さない羞恥。
力を込めて抱き締めて、飛影はズルズルと座り込んだ。
そのまま蔵馬もズルズルと流される。
「ひ、えい」
消えそうな声は甘かった。喉の奥にまで染み込みそうな声を
受け止めると、くい、と頤を取る。
「俺を、観ろ」
「えっ…?」
蔵馬の碧の瞳、ただ黒髪が反射して見えて、瞳が黒くも見える。
「なん・・・て?」
ザア、とシャワーの音で、飛影の声がよくわからない。
ただ、彷徨っている甘い声の余韻だけが、降ってきた。
「観ろ」
「なに?なに・・・を?」
ぼんやりとしているのは、湯気のせいなのだろうか。
昔盗み出した、中国の宝玉に似ている。
緩く流れるような黒髪から、甘い香りがする。
くらくらする。
媚薬の香りのように、飛影の世界だけで感じられた。
こいつは、こんなにも、こんなにも可愛かったのか。
飛影の言葉を捕らえられないことがもどかしくて、
蔵馬は下を向いたが、
「ひえ、い」
ぼんやりと口から出た言葉は頼りない。
シャワーがまだ床に流れていて、湿気と、
蔵馬の纏う香りが混ざる。
淡く香る花の香り。