夢幻 震える夜を溶かしてよ
そして、熱さが在る。
「はあっ…」
飛影だと思った。湯の熱気の中、蔵馬の唇は熱を帯びて、
別の熱も重なり合う。
「んふっ…」
しゃがみこんだまま足を開かせて、唇を重ねる。
そのまま口内をまさぐる。
熱を帯びた飛影の舌がぬる、とした感触が蔵馬の
唇の中を彷徨う。
舌を舐め上げれば、堪えきれず逃げようとするのを逃さない。
――逃がさない。
絡めると、甘えるように答えるくせに、自らは行動しない。
出来ない。
――初心なヤツ。
相変わらず。
初めてではない癖に。
逃がさないと思った。そうするわけには行かない。
だってそれは、蔵馬が一番望んでいることだからだ。
ねっとりと舌の周りを舐めると、奥まで舌を入れてみる。
咄嗟に逃げようとする舌を、無理やりに絡める。
「あっ、んう…」
雫が頬を伝い、首筋を伝う。黒髪は濡れていて、
艶めかしかった。
されるがままに、結ばれるように悪戯を受け入れる。
余りに激しい口付けに一瞬腰が浮くのを押さえる。
唾液がだらしなく顎を伝う。淫靡だった。
「…逃げるな」
心の中で、お前が望んでいることだろ、と付け加える。
そうだ。本当は、蔵馬が望んでいることだ。
――奪ってやるよ。
喉の奥だけで囁く。
――指先まで、奪ってやる。
「ひ、えい。どうして…」
ああ、こいつは。どうして、俺のことが、わからない。
どうしてそんな瞳をする。
そっちが思うよりずっと、想っているのに。
「俺が、消してやる」
「っ!」
蔵馬の瞳が飛影を見詰めて、恥ずかしげにそらされた。
まとわりつく視線を、消してやる。